わずか13%にとどまった落札率
中小企業に貸し付けを行う政府系金融機関の商工組合中央金庫=商工中金。
2025年6月半ばまでの民営化を目指し、政府が保有する46%の株式をすべて売却することを計画している。
7月、その株式を売却するための入札が行われ、その結果が11日公表された。
政府保有株10億1600万株に対して落札されたのは1億3556万株。
落札率はわずか13%にとどまったという。
つまり、9割近くの株式が売れ残る事態となったわけだ。
なぜ売れ残ったのか
政府系機関の動向に詳しいSMBC日興証券の岩谷賢伸シニアクレジットアナリストは、落札率が低かった理由について次の3つをあげている。
1 売却先を中小企業組合とその構成員などに限定
2 投資対象としての魅力が低い
3 IR・PR不足
SMBC日興証券 岩谷賢伸シニアクレジットアナリスト
「投資対象としての魅力が低いことは、流動性の低さや配当利回りが高くはないことを見れば明らかで、利益を追求するよりも中小企業の支援に尽くすという姿からは、将来の成長性が見えにくい」
入札に参加したある団体の幹部に話を聞くと、「金融商品としての魅力は乏しかった。1株173円、1株あたりの配当金が3円で、配当利回りは1.7%。ひと昔前だったらよかったが、金利が上がってきた中で、その程度の利回りで資金を寝かせるのはメリットが少ない。流動性が低く売りたい時に売れないリスクもある」と話した。
そのうえで「正直、頼まれて最低限のお付き合いとして買った」という。
株主を中小企業組合とその構成員となる中小企業に限定している理由について政府は、中小企業のための金融機関という性格を維持するためと説明している。
IRやPRが不足していたというのは改善の余地があるが、本質的には、支援の対象となる中小企業の側がこれからも商工中金を必要とするかが問われているように感じる。
入札に参加したという茨城県の製造加工会社の社長に聞くと、「先々代の創業者の時からの長い付き合いで、その信頼関係をさらに深めたいと思い入札した。全国の支店を生かしてさまざまな業種の企業とつないでくれる。私たちではどうしようもない災害時には支援もしてくれるありがたい存在だ」と話していた。
中小企業の間で、こうした声が広がるかにかかっている。
商工中金の存在感がカギに
商工中金は1936年に設立され、株式の保有割合は政府が46.5%、中小企業組合と中小企業が53%、残りの0.5%が自己株式となっている。
災害や経済環境の大きな変化などで資金繰りが悪化した中小企業に、低金利で資金を貸し付ける「危機対応融資」が特徴で、現在、貸出残高の9割以上が中小企業向けとなっている。
一方、日本の中小企業全体への貸出残高(2023年12月時点で346.9兆円)のうち、商工中金の貸出残高は9.6兆円となっている(中小企業白書)。
商工中金に求められることはなにか。
民営化を検討した有識者会議で委員を務めた神戸大学経済経営研究所の家森信善教授は「応援しようという企業や団体はあるはずで、仮に再度入札を行うのであれば、中小企業や支援団体に入札を働きかけることが求められる」と話す。
そのうえで、次のように指摘した。
神戸大学経済経営研究所 家森信善教授
「商工中金の強みは地域の金融機関との比較でいえば、全国的なネットワークを生かしてビジネスマッチングで全国の企業をつなげることができることと、豊富な金融技術と支援経験があること。メガバンクとの比較でいえば、中小企業向けに特化した能力があり、収益をある程度は我慢しながら長期的に支援できること。民営化をしたあとも、民間の金融機関と連携しながら、中小企業金融を強化する役割を果たすことが重要だ」
商工中金「自己株式の取得も検討」
政府は、改めて入札を行うことも検討しているが、商工中金は、売れ残った場合の対応として株式の自己取得の検討を明らかにした。
商工中金は、「これまで会社でもお客様にご案内し、財務局でも入札説明会を開くなど、やることはやってきた結果だと受け止めています」としている。
そのうえで、自己株式の取得については、「検討にあたっては自己資本比率が下がることによる経営への影響や、株主への影響を考慮していきます」としている。
経営戦略として、「中小企業による中小企業のための金融機関」として変化を続けるとしたうえで、引き続き危機対応融資を責務として行うことに加えて、従来の金融とは違う「差別化分野」としてスタートアップ支援や事業再生支援などを打ち出している。
日本の企業の99%を占める中小企業は、これからも日本経済を支える重要な役割を担う。
商工中金がこれからも必要とされる存在になるために、自己株式の取得の前に示す内容が期待される。
注目予定
来週はアメリカで雇用統計など重要な経済指標が相次ぎ発表されます。
アメリカ経済が堅調でFRBの利下げのペースが緩やかになるとの見方が市場関係者の間で改めて広がる中、先行きを見極めようと関心を集めています。
日本では、日銀の金融政策決定会合と植田総裁による記者会見が予定され、その内容にも注目が集まっています。
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