電気自動車(EV)の製造コストの3分の1を占める蓄電池。EVの需要拡大で増産が見込まれる中、産官学による人材確保や育成を進める取り組みが関西を起点に始まっている。国内での旺盛な電池関連投資を背景に、その取り組みは全国に広がりつつある。
「電池は社会になくてはならない存在になる。学生の皆さんには広く活躍いただけます」
11月11日に大阪市内で開かれた説明会。現地とオンラインで参加した高校と高専の約60人の教員を前に、電池産業の業界団体「電池サプライチェーン協議会(BASC)」の鈴木一裕事務局長が呼びかけた。
説明会は国内の電池関連企業や教育機関、経済産業省などでつくる「関西蓄電池人材育成等コンソーシアム」が主催。生徒に電池産業に興味を持ってもらうためコンソーシアムが開発した「バッテリー教育プログラム」を教員らに紹介した。
プログラム開発には2022年に策定された「蓄電池産業戦略」が背景にある。世界シェアで優位に立つ中国や韓国のメーカーに対抗するため、日本勢の世界シェア2割の確保や国内での製造能力増強を目標に掲げた。そのためには供給網全体で3万人の人材が必要としている。
プログラムは、メーカーの社内研修資料を活用し、23年8月から半年間にわたって産業界と教育界で内容を議論。テキストは、電池が使われる日常生活の場面から製造工程までを盛り込んだ4章約100ページにわたる。さらに、動画やグループディスカッション用のワークシートなど現場で内容や時間を柔軟に工夫できる教材に仕上げた。希望校には、産業技術総合研究所関西センター(大阪府池田市)で小型電池製造も体験できる。
プログラムは4月から本格的に始まった。7月には姫路工業高校(兵庫県姫路市)で、電池メーカー「プライムプラネットエナジー&ソリューションズ」の社員がプログラムを使って出前授業を行った。同社は姫路市に製造拠点があり、トヨタ自動車などに車載電池を供給している。授業では自社製電池が搭載されたEVを前に、社員が生徒の質問に答えた。
姫路工業高校では小型電池の製造を体験。今後は電池工場を見学する予定だ。同校工業化学科では23年度までの2年間で電池メーカーへの就職希望がなかったが、24年度は3年生の約3割が希望し内定を得た生徒もいるという。工業化学科長の宇都宮英人教諭は「興味関心は高まっている。座学の基礎があることで仕事内容を理解した上で仕事に就くことができる。座学だけでは理解や興味関心が深まらなかった生徒もおり、実習や工場見学を通して、教材を最大限生かすことができる」と指摘する。
11月5日時点で高校や高専など25校が授業を実施した。教材は電池関連産業が集積する関西の関係者中心で作成されたが、授業実施校は北海道から熊本県まで全国に広がっている。BASCの鈴木さんは「関東や九州でも電池工場への投資計画が発表されている。自分たちの街にも電池工場ができるという関心の高まりがあるのではないか」と分析する。BASCによると、政府の補助も含めた電池関連の総投資額は24年9月時点で約2兆円に達するという。
一方で学生の就職先は知名度のある企業に偏る傾向があり、産業全体の発展には継続した取り組みが不可欠だ。鈴木さんは「企業講師の派遣などを通じて産業界と学校との連携が進むきっかけになった。工場立地地域を中心に全国各地に活動を広げたい」と話す。【妹尾直道】
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