「サイバー安全保障分野での対応能力の向上に向けた有識者会議」で発言する石破首相(29日午前、首相官邸)

政府の有識者会議は29日、サイバー攻撃を未然に防ぐ「能動的サイバー防御」を可能にする法整備に向けた最終提言を示した。重大な攻撃の兆候を察知した場合、自衛隊や警察が相手サーバーに入って無害化できるようにする。独立した第三者機関がチェックする仕組みをつくる。

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同日に首相官邸で開いた会合でまとめた。出席した石破茂首相は「日本のサイバー対応能力の向上は現在の安全保障環境に鑑みるとますます急を要する課題だ」と訴えた。

首相はサイバー安保を担当する平将明デジタル相に関連法案の早期作成を指示した。政府は2025年の通常国会にも法案を提出する方針だ。日本維新の会や国民民主党など法整備に前向きな野党に協力を呼びかける。

能動的サイバー防御は国が平時から通信を監視し、重要インフラへの攻撃などの兆候段階で相手のシステムに入り、攻撃できないように無害化する仕組みだ。政府は22年末の国家安全保障戦略に導入を明記した。有識者会議は6月から議論を続けてきた。

提言は①官民連携の強化②通信情報の利用③アクセス・無害化④横断的課題――を柱に据えた。

攻撃の兆候を探るには通信情報の分析が必要で、憲法上の「通信の秘密」への配慮が欠かせない。提言はメールの中身など「個人のコミュニケーションの本質的な内容に関わる情報」は分析には不要だと整理した。

独立機関によって政府が適切に情報を活用しているかをチェックする制度設計を求めた。

重要インフラを担う民間企業などにサイバー被害を政府に報告するよう義務づける。電力やガスなど経済安全保障推進法で規定する基幹インフラ15業種を対象とする。

15業種の事業者が使用するIT(情報技術)機器、ソフトウエアの情報の国への登録を義務づける制度も提案した。

自衛隊や警察による無害化などの対象は国や重要インフラなどを挙げた。有事に自衛隊や在日米軍が依存するインフラなどへの攻撃も「重点とすべき」と記した。

無害化などの手法について「状況に応じ臨機応変な判断」が必要と指摘した。実施状況の透明性や適正性の確保のため「独立した立場から専門的知見も取り入れた事後的な監督を受けることなども考えられる」と盛り込んだ。

内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)を政府の司令塔として発展的に改組することや、官民の人材交流や中小企業への対策支援の重要性を説いた。

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