(1)医薬品卸メディセオの物流拠点で稼働するMujinの物流ロボット (2)本社にも様々な機器を置き、開発を加速する (3)本社の開発ルームは世界中のエンジニアが働く (4)本社は企業の物流拠点が集積する東京湾岸エリアの倉庫にある(写真=左:堀 勝志古、右3点:栗原 克己)
物流現場などで活躍するロボットや制御ソフトの開発を手掛けるMujin(ムジン)。世界中からかき集めた一流エンジニアが、泥臭い導入支援にも地道に取り組む。企業価値10億ドル(約1500億円)以上の未上場企業、「ユニコーン」まであと一歩。創業者の一人で最高経営責任者(CEO)の滝野一征氏は、日本発のグローバル大手を目指す。

物流拠点の入り口では、医薬品メーカーから届いたパレットをロボットがケース単位で荷下ろしすると、物流ラインに載せる。別の場所では違うロボットが形やサイズの異なる医薬品を次々とピックアップし、出荷する医療機関に届けるケースに仕分けして入れる。

Mujin(ムジン、東京・江東)はこのロボットの動きを制御するソフト開発などを手掛けるスタートアップだ。物流や製造の現場の自動化を担い、ロボットハンドや無人搬送車(AGV)といったハードウエアおよびこれを統合管理するシステム基盤「Mujinコントローラプラットフォーム」を手掛ける。

現場ではロボットが目立つが、それを制御するソフトこそが生産性の決め手となる。同社のプラットフォームは様々なメーカーのロボットを統合制御できる。創業者の一人でCEOの滝野一征氏は「オーケストラは優れた演奏者をそろえても好き勝手に演奏するといい音楽にならない。大事なのが指揮者で、その役割を果たす」と話す。各企業が使っている様々なロボットを束ねて効率化する、人手不足に苦しむ物流や製造の現場の救世主だ。

(1)ロボットアームや先端に取り付けるロボットハンドを手掛ける (2)無人搬送車(AGV)は倉庫や製造現場の搬送を人に代わって行い、作業負担を軽減する (3)Mujinコントローラプラットフォームの画面。自社だけでなく、他社のロボットも制御する(写真=3点:Mujin提供)
Mujinの創業者の一人で最高経営責任者(CEO)の滝野一征氏(写真=栗原 克己)

特許価値が大きく成長

技術の高さは特許への評価の高さが示す。米知財情報会社レクシスネクシスによると、同一の発明の特許出願をまとめた「特許ファミリー件数」が過去7年で大きく増加。各特許ファミリーの競争力を他社からの引用数などから測る「競争力指数」も上昇し、同指数が世界の全企業の上位2%以内に入る。過去2年の各社が持つ特許価値の成長度合いによる国内「特許価値成長ランキング」は17位。大手が居並ぶ中、高い位置にある。知財専門部署をつくり、特許出願を戦略的に進めてきた結果だ。

注:円の大きさは「特許総価値」(各特許ファミリーの競争力指数を合算)の大きさを示す
注:米レクシスネクシスの特許分析ツール「パテントサイトプラス」を用いて分析。レクシスネクシスは同一の発明の特許出願をまとめて「特許ファミリー」のデータを整理した上で、各特許ファミリーの競争力を他社からの引用数などに基づいて測る「競争力指数」を算出する。被引用件数にパテントサイトの価値評価手法を適用した「技術的な価値」に基づき「特許価値」を算出。21年末時点と23年末時点を比較し、成長度合いをランキング化

医薬品卸のメディセオ(東京・中央)は冒頭の物流施設「阪神ALC(エリア・ロジスティクス・センター)」を2023年、兵庫県西宮市に開設。旧施設は1日約500人体制だったが、Mujinのソフトなどで自動化を進め、5割減の約250人で運営する。「スタッフに負担がかかる重作業がなくなり、生産性は従来のALCの1.5倍」と同社の若菜純常務は顔をほころばせる。

11年創業のMujinは業歴が14年目と浅いが技術力への評価は高く、日本経済新聞社の23年の調査では推計企業価値が1186億円に達する。同10億ドル(約1500億円)以上の未上場企業、「ユニコーン」が近づくが滝野氏は「通過点であり意識しない。目標はグローバル企業」と話す。ユーザーはトヨタ自動車、ファーストリテイリングなど有力企業がそろい、導入拠点は全国に広がる。

海外は中国、米国、オランダに拠点を開設。中国の電子商取引(EC)大手、京東集団(JDドットコム)が採用。北米はウォルマートカナダで実装実験が終わり、カルガリーで導入が始まった。同社に投資するSBIインベストメントの山田昌平投資部長は「海外の巨大流通に入り込む日本企業はなく、大きな期待が持てる」と話す。

売上高は非公表だがここ数年2倍近い成長が続いており、社外の専門家によると70億〜100億円ほど。売上高海外比率はまだ3割程度と見られるが、米飲料大手や米日用品大手とのプロジェクトも進行。10億円以上の案件も決まり、3年後には国内を超えそうだ。

類は友を呼ぶ、「芋づる式採用」

東京湾を臨む東京・辰巳。同社の本社は企業の物流センターが集積するこの地区にある。倉庫の2つのフロアを使ったオフィスは天井が高く間仕切りが少ない。グローバル志向が強い同社らしい、海外のベンチャー企業を思わせる拠点だ。会社全体もグローバル化が進み、約450人の社員は世界約30カ国から集まる。英語と日本語の両方を社内の「公用語」にしている。

同社はここに開発拠点も置く。オフィスには高スペックのパソコンが並ぶ開発ルームと同時にロボットハンドなどハードがそろうゾーンがあり、開発が進めやすい。顧客向けのデモを行うスペースも多数あり、営業とも連携しやすい。

(1)Mujinの社員は約30カ国から集まっており、社内はグローバル色が強い(写真=栗原 克己)
(2)社内の「公用語」は日本語と英語で、オフィス内は英語の表示も多い (3)社内のコミュニケーションを深めるために、余暇ゾーンも整備する(写真=2点:栗原 克己)

開発拠点は米国にもあるが、東京にエンジニアの8割が集結する。滝野氏は「ロボットメーカーは日本が世界一。国内ならメーカーと会話しやすい。優れたものづくり企業も多く、日本で鍛えた技術は海外で評価が高い」と話す。東京の約100人のエンジニアのうち実に7〜8割が外国人。米マサチューセッツ工科大学や米カーネギーメロン大学など有力大学の出身者が多い。20〜30代が目立つが、大半は転職者で、米グーグルを傘下に持つ米アルファベットや米マイクロソフトの出身者もいる。

優秀なエンジニアは世界中から引き合いがあり、日本に来てもらうのは簡単ではない。多いのは在籍するエンジニアによる紹介で、比率は非公開だが3割では収まらないという。滝野氏は「優秀な人材は優秀な人材と働きたい意識が強い。当社で働くメリットを理解してもらうことが大切で報酬の高さで引きつけることはない」と話す。

集めた人材に力を発揮してもらうため、コミュニケーションにも力を入れる。無料の社員食堂を用意し、毎月チームごとにディナーの費用の一部も会社が補助する。

引く手あまたの人材を掌握する難しさも感じている。「日本が得意なのは1を10にするものづくりだが、ソフトで大切なのは0を1にすること。個性の生かし方は仕事によって違う」と滝野氏は話す。半年ごとに目標達成を評価して給料に反映するが、成果をどう評価するかは部署のリーダーに任せる。

企業は人なり――。テック系スタートアップの先頭を走るMujinは、技術を生み出す「人」にフォーカスする経営で成長を実現した。

(日経ビジネス 中沢康彦)

[日経ビジネス電子版 2024年11月18日付の記事を再構成]

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