23日に協議入りが発表された、ホンダと日産自動車の経営統合。実現すれば世界有数の自動車グループが誕生する一方、下請け企業などサプライチェーン(供給網)への影響も懸念される。自動車の一大生産拠点として「カーアイランド」とも呼ばれる九州でも、不安と期待が交錯した。
「まだ何も聞かされていない。これからのことは何も分かりません」
23日午後、日産の主力拠点の一つ、日産自動車九州(福岡県苅田町)の前で、勤務を終えた30代の男性従業員はそう話し、足早に駐車場へ向かった。工場には、部品を納入する大型トラックがいつものように出入りしていた。
人気車種の「セレナ」「エクストレイル」を生産し、年約50万台の生産能力を有する日産自動車九州。従業員は約4500人に上り、町内外には下請けをはじめ多くのサプライヤーが集積して地域経済を支える。
2024年は、社会人野球の日産自動車九州が15年ぶりに企業チームとして復活。25年には日産自動車が九州で操業を開始してから50年となる節目を迎えるのに合わせ、地元では祝賀行事の計画も進む中、飛び込んできたニュースだった。
苅田町の担当者は「町内には自動車関連企業が多く地域を支えてきた歴史があるが、現時点ではコメントしがたい」。苅田町に隣接し、下請け企業の多い福岡県行橋市の担当者は「自動車産業は市の最も重要な産業の一つ。いい方向に行けばいいが……」と気をもむ。
下請け企業も協議の行方を注視する。
日産自動車九州から物流業務を請け負う会社の担当者は「心配だが、具体的にどうなるか分からないと対応しようがない」。工場の設備製造を手がける会社の担当者は「ここは日産グループの基幹工場で、大きな影響はないはず。ネガティブには捉えず、シナジー効果を期待したい」と話す。
経済産業省九州経済産業局によると、九州の四輪自動車の生産台数は年間136・9万台(23年)と全国の15・2%を占める。ホンダも熊本県大津町に二輪車の工場を構えており、町企業振興課の担当者は「大津町は二輪なので、どう影響するのか動向を注視していきたい」と語る。
九州経済調査協会(福岡市)の清水隆哉・研究主査は「50年前の日産進出は、九州が『カーアイランド』となるきっかけになった。部品メーカーなどが集積し、経営統合で生産体制が変われば地域経済への影響は大きい」と指摘。「統合するにしても、九州経済にいい影響を与える形になることが望ましい」と話した。【松本昌樹、日向米華、山口響、平川昌範】
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