清水建設の2024年3月期決算は連結営業利益が上場来初の赤字となった

清水建設は13日、2024年3月期の連結営業損益が246億円の赤字(前の期は546億円の黒字)になったと発表した。1961年に上場して以来、通期での営業赤字は初めて。売上高は4%増の2兆55億円と増加したものの、民間の大型建設工事のコスト高騰が響き収益性が低下した。純利益は65%減の171億円だった。

25年3月期は連結営業利益が410億円になる予想だ。売上高は前期比10%減の1兆8000億円、純利益は2.3倍の400億円を見込む。工事採算の改善によって利益は持ち直すが、持続的な成長を望むには建設以外の分野を伸ばす必要がある。

清水建設の強みは、祖業でもありビルなど建築物を建てる建築工事だ。道路やダム、トンネルなど公共事業が多い土木工事とは異なり、建築工事は民間需要が大部分となる。これまでは民間企業などの豊富な投資需要を追い風に業績を伸ばしてきた。

だが、得意としてきたオフィスビルなど建築工事が業績悪化を招く。要因は2つ。「工事の大規模化」と「資材価格の高騰」だ。

森ビルが東京23区の大規模オフィスビルの調査をしたところ、2000年までは年平均で1物件当たり2万〜3万平方メートル台だったのに対し、10年代以降は4万平方メートル超の年が増えた。大型案件は受注を逃がすと収益への影響が大きい。需要が先細りする懸念もあり、建設業界では受注獲得を優先した価格競争が激化した。

加えて21年ごろから資材価格の高騰が工事現場を襲った。大型プロジェクトほど工期は長くなる。そして工期が長期化するほど、建設費は見積もりから乖離(かいり)した。

公共事業では資材価格の変動に応じて契約金額を発注者と見直す「スライド条項」を契約に盛り込んで受注するのが一般的だ。これならば受注者である建設会社の採算は悪化しにくい。

しかし、民間は公共ほどスライド条項が浸透していない。民間工事の比率が高い清水建設は、資材や人件費の高騰分の多くを負担する結果となった。

加えて新型コロナウイルス禍による海外からの資材納入の遅れなど、不測の事態に伴う工程の見直しは大規模工事ほど工期末の突貫工事を誘発し、労務費を膨張させた。23年には建設中だった超高層ビル「田町タワー」(東京・港)で設計内容と工事のずれが発覚。竣工が遅れて損失が膨らんだ。

野村証券の浜川友吾リサーチアナリストは「高層ビルにおける工事原価の見積もりやリスク管理の甘さが課題」と指摘する。建築の完成工事損益率(単体ベース)は24年3月期にマイナス2.9%とプラス4.1%だった前期から大幅に低下した。早い段階で受注時採算の確保に取り組み、価格競争を避けた鹿島(9.7%の見通し)とは大きな差が開いた。

受注時の採算確保によって今期は黒字を見込むが、長期的な競争力の確保はなお課題だ。清水建設は23年度を最終年度とする5カ年の中期経営計画で売上利益目標を2350億円と掲げていたが未達に終わった。

日本建設業連合会(日建連)がまとめた23年度の国内建設受注額は22年度比9%増の17兆6646億円と過去20年で最高を記録する。国内の建設需要は足元では好調とはいえ、資材価格が工事単価を押し上げている側面もある。人口減少によって長期的な先行きは不透明さを増している。

建設現場で作業に従事する職人の深刻な不足に加えて、24年4月には残業時間の上限規制が導入されたことで現場監督をはじめとした社員の労働時間にも制約が強まる。建築工事だけではますます収益の安定化を目指しにくくなる。

競合他社は建設以外の事業を拡大している。鹿島は米国での不動産開発に力を注ぐ。大林組は23年に米国の水インフラ企業を買収した。準大手ではインフロニア・ホールディングスが24年1月に風力発電大手の日本風力開発を買収。30年度にインフラ運営と風力発電関連事業で営業利益1000億円の約半分を稼ぐ目標を掲げる。

清水建設も新事業への投資を進める。13日、3カ年の中期経営計画を発表し、最終年度である26年度にグループの売上利益を前中計目標からほぼ横ばいの2300億円とする目標を掲げた。このうち建設事業を除く開発事業などの売上利益が占める比率を、24年度見通しの約23%から約28%に高める。

3カ年の中期経営計画を説明する井上和幸社長(13日、オンライン会見のスクリーンショット)

国内外の不動産開発に3年で計2000億円を投じ、利益を伸ばす。洋上風力をはじめ脱炭素分野での受注も増やす。13日に開いた新中計のオンライン説明会で井上和幸社長は「各事業を成長させることで事業ポートフォリオの充実を図る」と語った。

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