【ソウル=木下大資】韓国軍は9日、北朝鮮が8日夜以降にごみをぶら下げた風船を韓国側へ飛ばしたことを受け、2018年に中断していた南北軍事境界線付近の拡声器による北朝鮮向け宣伝放送を再開した。拡声器放送は北朝鮮が最も嫌う心理戦の手段とされ、南北の緊張が高まる可能性がある。

◆前回再開時は砲撃も

 韓国軍合同参謀本部は、9日時点で北朝鮮が約330個の風船を飛ばし、80個が韓国内に落下したと確認。紙くずなどが付いており、有害物質はなかった。大統領府は同日の国家安全保障会議(NSC)で、対抗措置として拡声器放送の再開を決定。「北朝鮮の政権にとっては耐え難いが、軍や住民には光と希望の情報を伝える。今後、緊張の高まりの責任は全面的に北朝鮮側にある」と表明した。

板門店の南北軍事境界線(資料写真)

 聯合ニュースによると、韓国軍の拡声器放送は24キロ先まで届く。9日夕の約2時間、サムスン電子の携帯電話の好調など韓国の発展ぶりを伝えるニュースや、アイドルグループ「BTS」の歌を流したという。  北朝鮮はごみの散布について、韓国の脱北者団体が金正恩(キムジョンウン)体制を批判するビラなどを大型風船で飛ばしたことへの対抗と位置付ける。9日深夜にも再び風船を飛ばし、金与正(キムヨジョン)朝鮮労働党副部長が朝鮮中央通信を通じた談話で「韓国がビラ散布と拡声器放送を続けるなら、新たなわれわれの対応を目撃することになる」と警告。一方で「休みなく紙くずを片付けなければならない困惑は韓国の日常になるだろう」とも述べ、武力行使は自制する姿勢もうかがわせた。  韓国軍は10日、北朝鮮軍が軍事境界線付近に拡声器を設置する動向を捉えたと発表した。対南宣伝放送の準備とみられる。  北朝鮮は過去にも韓国軍の拡声器放送に強く反発。朴槿恵(パククネ)政権だった15年、軍が11年ぶりに拡声器放送を再開した際には、北朝鮮は砲撃を加え、「準戦時体制」を宣言するなど一触即発の状態になった。当時は南北高官の会談が実現して沈静化したが、現在は南北の対話が途絶しており、緊張緩和の道筋は見えない。 

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