中国広東省の地方都市・茂名(もめい)市はかつて「石油の街」で知られたが、環境破壊を受けて石油生産が停止された後、代わりに特産品のブランド化を推し進め、今や「ライチの街」へと転身を遂げた。人口減少や地方財政の先行きに不透明感が強まる中、中央政府は特色を生かした生き残りを地方政府に求めている。(広東省茂名市で、石井宏樹)

5月、広東省茂名市でライチの収穫、仕分けをする作業者=朱秋紅撮影

◆木を植えても枯れるほど汚染

 外国メディア向けのプレスツアーで、市中心地から車で15分ほどの場所にある「露天礦(ろてんこう)生態公園」を訪れると、目の前に巨大な湖が現れた。広さ6.8平方キロの湖は石油の採掘場として掘られた巨大な坑で、公園の入り口にある輸送用鉄道が当時の面影を残す。  1960年代に採掘が始まったこの場所はシェールオイルを含んだ岩盤が幾層にも積み重なり、地表から岩を掘り出して近くの工場で石油を取り出した。公園の管理者は「当時は石油が不足し、国内各地から探し当てた石油資源だった」と説明。環境破壊とコスト高のため、93年に生産を停止した。

5月、広東省茂名市で石油の採掘場跡につくった湖と、以前の汚染状況を説明する公園の管理者

 採掘跡地は周辺住民がごみを投棄し、汚染物質を含んだ廃水がたまる惨状で、地元政府は2013年に改造に着手。企業の寄付などを募り、6億元(現レートで130億円)の巨費を投じた。当初は木を植えてもすぐに枯れたが、土を入れ替えて40万本を植樹。ダムから水を引き入れて水質改善を進め、市民の憩いの場に生まれ変わらせた。

◆1000年以上の古木の実は超高級品

 市が緑化政策を進めるとともに、その看板として前面に押し出したのが古くから収穫されてきたライチだ。唐時代には楊貴妃(ようきひ)に献上したとされ、1000年以上の古木が今も実を付ける。  1300年の歴史を持つライチ園「貢園」には樹齢500年超の古木が30本、1000年超が9本残る。毎年、古木のライチ採取権をオークションに掛け、落札価格は1本200万元(4200万円)を超える。1000年超の古木のライチは500グラム(約20個)で2888元(約6万円)の超高級品として売り出している。  高級化に加え、通常のライチも品質や輸送技術の向上で価格の安定化に取り組む。以前は農家にとっては増産が全てで、収穫が増えれば価格の下落に悩まされた。今年は北京や上海、南京など大都市に収穫翌日に届ける空路や鉄道の輸送網を整える予定だ。

◆一村一品運動の成功例

 中国全体を見れば、不動産不況の長期化で地方政府の主な財源となる土地使用権の売却収入が減少し、不動産主導の地方運営は曲がり角を迎えている。人口減少時代に入り、大都市への人口流出も地方の衰退に拍車をかける。  中央政府は3年前から全国一村一品運動を始め、各地に特産品のブランド化を進めるよう発破をかける。茂名市のライチ産業は昨年4月、習近平(しゅうきんぺい)国家主席の視察を受けるなど、その路線に従った成功例の一つといえる。同時に周辺都市を見ると、似通った気候のため、同じくライチを売りにする地方都市が点在。差別化に向けた取り組みに終わりはなく、地方都市間の競争は厳しさを増しそうだ。 

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