保護施設で餌を食べるパンダ
◆立ち入り禁止の研究所 その内部は…
パンダ保護の核心部であることを示す標識。山深い研究基地付近への道中にあった
パンダ最大の生息地として知られる四川省。標高2400メートルの山深い国立公園内に、パンダを野生に返すための研究基地がある。生息の「核心部」に位置し一般の立ち入りは認められていないが、6月、取材の許可を得て訪れた。パンダの生息地に設置されたセンサーカメラを開けて操作する男性職員
研究者に連れられて基地からさらに山道を登ると、茂みに生えた木の幹に、家のインターホンのような形をした迷彩柄の機器が取り付けてあった。赤外線のセンサーカメラだ。管理する男性職員は「近くのカメラで実際にパンダを撮影したことがある」と誇らしげに語った。 冬場に雪をかき分けて歩く姿、木におしりをこすり付けてマーキングする様子、茂みを歩き回る親子…。カメラで撮影されたこうした映像が、個体数や状況を把握するための貴重な資料となる。保護活動を担う副主任の付明霞(ふめいか)さんは「周辺では野生が3頭確認されているほか、野生に返すため『訓練』しているパンダも4頭いる」と説明する。◆政府の森林開発制限や保護活動が奏功
中国・四川省雅安で6月、保護施設で飼育されているパンダ
付さんの言う「訓練」とは、野生へ返す前に餌や水場を探す経験を積ませ、自然環境に慣れさせる過程を指す。野生の小さな個体群は常に減少のリスクにさらされているため、新たな個体を加えることで繁殖につなげ、遺伝的な多様性をもたらす狙いがある。 パンダはかつて絶滅の危機にあった。中国がおおむね10年ごとに実施している生息数の調査によると、1970年代に全国で2459頭が確認されたが、80年代には1114頭と半数以下に激減。森林伐採で生息域が減ったり分断されたりしたのが原因だ。 政府の開発制限や保護活動が奏功し、近年は従来の数を取り戻しつつある。飼育下のパンダも現在は10年前の2倍にあたる約730頭まで増えた。今後、将来にわたって野生の生息数を増やす鍵になるのが飼育下のパンダを野生に返す活動だが、その道のりは決して平たんではない。◆活動開始から20年余りでやっと軌道に
中国・四川省雅安で6月、研究基地付近のセンサーカメラで撮影されたパンダの映像
2003年にプロジェクトが始まって以降、これまで野生に返されたパンダはまだわずか12頭。06年に初めて放たれた個体はすぐ死んでしまい、一時中断せざるを得ない時期もあった。 中国パンダ保護研究センターの基地で主任を務める呉代福(ごだいふく)さんは「訓練をしていない個体を野生に返しても繁殖につながらなかった」と話し、何より事前の訓練が不可欠だと説く。 取材に応じた研究者たちによると、野生に返すまで1頭を訓練させるのに3年前後の時間がかかる。費用も決して安くなく、餌代や人件費などで1頭あたり年間100万元(約2200万円)以上を要するといい、中国政府がいかに力を入れているかを物語る。 生息数の調査は直近の11~14年以降、行われていないため現時点の数は不明だが、呉さんは「実感として数は増え続けている」と強調。「今年は訓練中の2頭を野生に返す計画がある」とも話し、活動開始から20年余りを経て軌道に乗りつつあることをにじませた。 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。