サウジアラビアにあるイスラム教の聖地メッカで6月17日、大巡礼に訪れていたイスラム教徒およそ1300人が熱中症などにより死亡した。気温が51.8度を観測する酷暑日の中、サウジアラビア国内外から約180万人が参加していたという。
イスラム教の大巡礼「ハッジ」とはどういったものなのか。イスラム地域に詳しい、中東調査会の高尾賢一郎研究主幹に聞いた。
一生に1度は大巡礼
ーー大巡礼「ハッジ」とはどういったもの?
大巡礼はイスラム教徒の義務の1つであり、イスラム暦の12月上旬に聖地メッカとその周辺を巡るものです。イスラム歴は西暦とは1年で11日ほどずれるので、大巡礼は年によって真冬になることもあれば、真夏になることもあります。
イスラム教徒は、可能であれば一生のうちに一度は大巡礼に行くよう命じられます。世界のイスラム教徒は今や20億人を超え、毎年だいたい150万から250万人ぐらいが大巡礼に訪れます。
死亡者の多くは“無許可”巡礼
大巡礼に参加するためにはサウジアラビア政府が発行する許可証やビザを取得する必要があるが、2024年の大巡礼で死亡した約1300人のうち8割は、大巡礼を許可されていない人々だったという。
ーー大巡礼に参加するための手続きは?
メッカがあるサウジアラビアの人も国外の人も、大巡礼の際には事前に許可証を申請して取得する必要があります。許可証を持っていないと、違法な巡礼者ということで、罰金や強制退去などの処罰が科されます。
外国人であれば巡礼用のビザが発給されますが、その数はイスラム教徒の人口やサウジアラビアとの関係などを考慮して、国ごとに毎年千人、1万人などといった形で件数の割り当てがなされます。
その上で、各国のサウジアラビア大使館、イスラム教の国であれば宗教省やイスラム省といった公的機関、また巡礼ツアーの認可を受けた旅行会社、そしてイスラム教徒が少ない国では同教徒の団体(宗教法人)などが取りまとめ窓口になります。
ーー今回は無許可巡礼者が多かった?
毎年かなりの違法な巡礼者数が報告されています。原因の一つは国ごとにビザの発給件数が定められているためです。正規の発給に頼っていては、イスラム教徒の多い国だと10年待ちや20年待ち、あるいは理論上100年待ちになってしまうこともあります。
そうすると、ビザがなくて巡礼をしたいという人が大勢現れてしまいます。今年はエジプトからの違法巡礼者が多かったようですが、同国は中東最大、1億人以上の人口を抱え、その9割がイスラム教徒です。違法な巡礼をほう助する旅行会社の存在もしばしば報告されています。
想定外の巡礼者数で“暑さ対策”が不足
猛烈な暑さの中、日傘をさしたり、水を受け取りながら大巡礼に向かう人々が確認されたが、中には体調を崩し担架で運ばれる男性の姿もあった。気温が50度を超える中、サウジアラビア政府による“暑さ対策”は十分に行わていたのか。
ーー暑さ対策は十分だった?
完璧というわけにはいかないでしょうが、サウジアラビア政府は毎年、暑さを避けるためにテントやエアコンを設置するなど、ある程度の対策はしています。しかしこれは事前に発給された巡礼のビザや許可証の数に基いて準備しているので、違法巡礼者があまりにも多いと当然足りなくなります。
許可証無しに巡礼している人は、休憩所がないような場所を長距離に渡って歩いて来ます。そうすると休憩なしに直射日光を浴び続けるので、熱中症になる危険性が高まります。
このため、違法巡礼者の体調不良に関しては、サウジアラビア政府としては責任が持てないという立場を主張しています。
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