アメリカ共和党のトランプ前大統領(78)が15日、党大会で候補指名を受け、政権奪還ののろしを上げた。銃撃にもひるまない姿勢をアピールすることで党内の結束は急速に強まり、「トランプ党」の熱気は高まるばかり。選挙戦の雰囲気が一変する中、トランプ氏を「民主主義の脅威」と激しく批判してきた民主党のバイデン大統領(81)は受け身の対応を迫られている。(ワシントン・浅井俊典、ミルウォーキー・鈴木龍司)

◆副大統領候補にバンス氏発表、そろい踏み演出

 トランプ氏が会場に姿を見せると、耳をつんざくばかりの「USA」コールが湧き起こった。歓声に拳を上げるトランプ氏の表情は、感極まっているようにも見えた。

2020年1月、オハイオ州で演説するトランプ氏

 事件直後の党大会は、支持者を熱狂させる「仕掛け」にあふれていた。前日、複数の米メディアのインタビューで、指名受諾演説を国民に結束を呼びかける内容に書き換えたと強調。初日の会場入りも自ら交流サイト(SNS)で明かした。大会初日には、これまで明かしてこなかった副大統領候補を突如発表し、「そろい踏み」を演出した。  スコット上院議員は演説で、銃撃を受けた直後に拳を掲げたトランプ氏を「米国のライオンが立ち上がりほえたのだ」と持ち上げた。南部フロリダ州の代議員リック・レイシーさんはワシントン・ポスト紙の取材に「事件から日に日に勢いが増している」と語った。

◆39歳の若さ、「ラストベルト」の支持に照準

 「これほど光栄なことはない」。副大統領候補に指名された中西部オハイオ州選出のバンス上院議員(39)は、X(旧ツイッター)でこう表明した。  オハイオは、事件の起きたペンシルベニア、党大会を開催するウィスコンシン両州などとともに「ラストベルト(さび付いた工業地帯)」の一角をなし、勝敗のカギを握る。貧しい白人労働者階級の出身はトランプ氏の岩盤支持層と重なり、ラストベルトの労働者や生産者の支持拡大を図る狙いは明らかだ。  トランプ氏に忠実な保守強硬派で、穏健派や無党派層に敬遠されるおそれもあるが、バイデン氏との高齢対決とやゆされる選挙戦で30代という若さもアピールできると期待している。

◆撤退論は「国民感情に反する」

 労働者重視の姿勢は早くも効果が表れ、党大会ではトラック運転手らによる民主党系の有力労組の会長が演説。ロイター通信によると、同労組は内部分裂でどの候補も推薦しない可能性があり、労組重視のバイデン氏には打撃だ。

バイデン米大統領=2020年2月

 民主党内には、6月の討論会で精彩を欠いたバイデン氏への撤退圧力が強まっていたが、「国家的な悲劇以外のことにエネルギーを向けるのは国民感情に反する」(フィリップス下院議員)として議論は中断。

◆「トランプ氏を標的」釈明に追われ

 バイデン氏にとっては党内説得にエネルギーをさく必要は当面なくなったものの、共和党議員らが「事件はバイデン政権があおったことで起きた」と批判を強めているだけに、トランプ氏批判を中心に据えた選挙活動が練り直しを迫られている。  バイデン氏は、大口献金者らに「トランプ氏を標的にする時がきた」と発言していたことが明らかになり、15日、NBCテレビのインタビューで「間違いだった」と釈明。防戦に追われている。 

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