タイの首都バンコクにある国際会議場で6月末、タイが持つエンタメやスポーツなど「ソフトパワー」を国内外にアピールする大規模イベント「THACCA SPLASH」が開催された。セター政権は、文化や価値観で他国を引きつけるソフトパワーの強化を主要政策の一つに掲げ、観光客誘致やコンテンツの輸出などを通じて経済成長につなげようとしている。(バンコク支局・藤川大樹、写真も)

ムエタイを実演する少年

◆「BL」やムエタイなどをイベントでアピール

日本ブースで塗り絵を楽しむ子供たち

 セター政権のソフトパワー戦略をリードするのは、タクシン元首相の次女で、最大与党「タイ貢献党」の党首を務めるペートンタン氏だ。ペートンタン氏は開会式で「タイは既にソフトパワーをリードする国の一つになりつつある。私たちはタイを、外国人観光客が一生に一度は訪れなければならない国にしたい」と意気込んだ。  会場では、タイを代表するアーティストの芸術作品やドリアンなどの特産品の展示、男性同士の恋愛を描く「ボーイズラブ(BL)」小説の紹介、伝統格闘技「ムエタイ」の実演などが行われた。  日本や韓国、イタリアなどのブースもあり、日本ブースでは2025年大阪・関西万博の公式キャラクター「ミャクミャク」の塗り絵コーナーで、子どもたちが楽しんでいた。

◆政策としてソフトパワーの技能取得支援へ

ソフトパワー戦略についてスピーチするタイ貢献党党首のペートンタン氏

 タイ貢献党は昨年の総選挙で、各家庭にソフトパワーに関する技能習得の機会を提供する「1家族1ソフトパワー」と名付ける政策を提唱。これにより「年収20万バーツ(約80万円)以上を稼ぐ高技能労働者を、2000万人生み出せる」と見積もっている。  タイでは、プラユット前政権もFood(食)、Fashion(ファッション)、Festivals(祭典)、Fighting(ムエタイ)、Film(映画)の魅力を発信する「5Fプロジェクト」を推進した。    ◇   ◇    

◆日韓、イタリアが参考「かわいいキャラは結束のシンボルに」

取材に答えるタイ・チュラロンコン大のエーク・パッタラタナクン助教(右)とパーリチャート・サターピターノン教授

 タイ政府は、日本や韓国、イタリアをソフトパワー戦略の手本としている。  チュラロンコン大のパーリチャート・サターピターノン教授(コミュニケーション学)は「ソフトパワーと聞けば真っ先に(サンリオキャラクターの)『ハローキティ』が思い浮かぶ」と語る。  「日本が生んだかわいいキャラクターは世界の人たちを結びつけるシンボルだ。タイも同じように、タイを象徴するもので社会と社会をつないでいく」と強調。「タイ料理が代表的だが、ただ外国に売り込むだけでなく、生産過程や食品の安全性が国際基準に見合っているかどうかを重視している」という。

◆タイ政府は「くまモン」に注目、熊本県に支援要請

 同大のエーク・パッタラタナクン助教(マーケティング学)は「タイは小さな国だが、文化的に豊かで、貿易にもたけ、外交力もあり、ソフトパワーの推進力となっている。これらは日本とも共通する」と述べ、マーケティング戦略や観光振興で日本とタイの協力関係を一層強化できると強調。  タイ政府は実際、熊本県のPRキャラクター「くまモン」に注目。首都バンコクへの一極集中の是正と地域活性化に向け、同県に地方振興策への支援を要請した。(岩田仲弘) 

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。