「4カ月後、私たちは信じられないほど大きい勝利を収めるだろう!」

銃撃事件から5日後、ウィスコンシン州で行われた共和党大会で壇上に立ったトランプ氏。あの事件についてこう語った。

「暗殺者の弾丸はあと数mmで私の命を奪うところだった。あまりにもつらい話なので二度と話すことはないだろう」

銃撃を受けたトランプ氏(ペンシルベニア州・13日)
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その右耳の傷は幅2cm、銃弾は頭部からわずか6mmの位置を通過したという。

日本時間21日(現地20日)、ミシガン州で開かれた事件後初の選挙集会に現れたトランプ氏の右耳には白いガーゼはなく、小さなばんそうこうに変わっていた。

アメリカを大きく揺るがした銃撃事件から1週間。あの日、演説会場で何があったのか?
Mr.サンデーは事件現場を独自取材。未だ多くの謎が残る“銃撃の真相”を追跡した。

「頭を動かしていなければ命中」

13日午後6時2分。ペンシルベニア州の会場に姿を見せたトランプ氏。午後6時5分。ステージに上がり演説が始まる。その4分後の午後6時9分、会場から離れた場所では異変が起きていた。

男性A:
あそこ見て。男の人がいるんだよ。
男性B:
おまわりさん!
女性:
屋根に男の人がいる!

壇上のトランプ氏から約130m離れた建物の屋根で怪しい男が目撃されていたのだ。銃撃直前に、クルックス容疑者をとらえた映像もある。そして……。

午後6時11分。クルックス容疑者が発砲。会場に銃声が響いた。別角度の映像を見ると、トランプ氏に向かって右側の客席に粉塵が上がり、着弾したことがわかる。

トランプ氏に向かって左側にいた男性は死亡、右側にいた2人は重体

混乱する聴衆。死亡した男性がいたのはトランプ氏に向かって左側、重体の2人は右側だった。銃撃の瞬間を捉えたとされる写真からは、トランプ氏の顔のすぐ横を弾丸がかすめたことがわかる。

共和党大会でトランプ氏は、「銃撃の瞬間に私が頭を動かさなければ、暗殺者の弾丸が完全に命中していただろう」と語った。

FBIで20年にわたり銃の指導をしてきた、元FBI捜査官・銃器専門家のマイケル・ハリガン氏も紙一重だったと分析する。

「頭を狙っていたと思いますね。トランプ氏は最初、聴衆を見て話していて、それからスクリーンの方に向き直りました。頭を動かした時に、弾がすぐ横を通り過ぎたんです。もし動かしていなければ頭に命中していたでしょう。まさに奇跡です」

容疑者とシークレットサービスの“微妙な位置関係”

今アメリカで、あるシミュレーション動画が話題となっている。

演説中のトランプ氏の頭の動きと弾道を示したシミュレーション動画

演説中のトランプ氏の頭の動きと弾道を示したものだが、トランプ氏が語る通り、ほんの少し右を向いたおかげで頭部への命中を回避している。それはまさに“6mmの奇跡”だった。

だが一体なぜ、ここまでやすやすとトランプ氏への銃撃を許してしまったのか。Mr.サンデーは、今も立ち入りが規制されている現場を独自取材。許可を得てドローンを飛ばしてみると、容疑者とシークレットサービスの微妙な位置関係が見えてきた。

容疑者がいた屋根からトランプ氏が立っていた場所まで飛ばすと、現場に遮るものは何もないことがわかる。ハリガン氏は「クルックス容疑者からトランプ氏まではストレートライン、一直線でした。とても狙いやすい位置にいます」と説明する。

これに対し、シークレットサービスの狙撃手がいたのは、演説ステージ後方の2カ所の建物の上。ハリガン氏によると、そのうち一つは、木に隠れて容疑者の姿が見えなかった可能性があるという。狙撃手から容疑者がいた位置へドローンを飛ばすと、確かに木が邪魔になり、容疑者がいた位置は死角になっている。

ハリガン氏によると、通常、銃撃犯は屋根の上など目立つところは避け、木の陰や聴衆などに紛れて潜むことが多いという。そのため、シークレットサービスが大胆に屋根に上がっていた容疑者を把握できなかった可能性もあるという。

合計10発の銃声を分析

こうした状況の中、容疑者はどのように銃を発砲したのか、現場の銃声が重要なデータになる。

容疑者がいた屋根に近い場所でスマホに記録された銃声のデータ

容疑者がいた屋根に近い場所でスマートフォンに記録された銃声のデータを映像と共に見ると、最初に同じ間隔で3発(※A、B、Cとする)放たれ、その後、5発連射、少し後に1発(※D、E、F、G、H、Iとする)。さらに10秒後にもう1発(※Jとする)合計10発の銃声が現場に響いたことになる。これは何を意味しているのか?

音声分析のスペシャリスト、モンタナ州立大学のロバート・マハー教授は「AからHの音は、かなり似ています。これらは同じ銃から発砲された可能性が高いように思います。おそらく容疑者が発砲したものでしょう」と推測する。マハー教授によれば、最初の8発は動画の撮影場所近くで聞こえてきた銃声、つまり、容疑者が放った可能性が高く、その後のIは不明。

だが、約10秒後の銃声、Jはかなり違うという。マハー教授は、「Jは離れた場所から撃たれたように見えます。つまり容疑者に向かって狙撃手が発砲し、殺害した銃声の可能性が高いと言えます」と指摘。つまり、容疑者は8発の銃弾を発砲。その10秒後に、シークレットサービスが容疑者を狙撃したことになる。

さらに、元FBIのハリガン氏が指摘したのは、最初の3発とその後の5発の意味。

「本来このライフルは、しっかりと狙いを定めて1発ずつ撃つものです。5発の銃声には間がないですよね。これは、最初の3発を外してしまったかもしれないと焦って連射したのだと考えられます」

射撃場で「AR15」を試射

今回、クルックス容疑者が使用したのは、「AR15」というライフル。一体どんな銃なのか?Mr.サンデーはカリフォルニア州の射撃場を訪ねた。

射撃場の管理者、トニー・ミズラーヒ氏は、AR15について「初心者向けで簡単に撃つことができる、とても人気のライフルです。パーツを買って自分の好みにカスタマイズすることもできます」と説明する。

1回に装填できる弾は20発から30発。女性でも簡単に撃てるようになるというが、持ってみると結構重いものの片手で持てなくはないぐらいだ。実際に撃たせてもらうと、1番手前を狙ってみたものの、撃つことはできても的には当たらない。これが130m離れた的となると、かなりの練習を積まなければ確実に当てることは難しいという。

クルックス容疑者は地元の射撃クラブの会員だったというが、その腕前は不明だ。

事件直後には、ネット上で様々な偽情報や陰謀論が飛び交ったが、狙われたトランプ氏は共和党大会で、これまでの攻撃的な姿勢とは一転し、「私はアメリカの半分ではなく、全てのアメリカのための大統領になるために立候補した」と国民に団結を呼びかけた。

アメリカの政治に詳しい、メリーランド大学法学教授のマイケル・グリーンバーガー氏も、「民主党員も共和党員もこの非常事態に歩み寄って団結しようとしていました」と、事件への動揺もあり、直後は“団結ムード”もあったと話す。一方で、「これから大統領選まで、両党の間で分断は深まっていくでしょう」と、団結はたやすいことではないと指摘する。

はたして大統領選挙の行方は……。
(「Mr.サンデー」7月21日放送より)

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