ハシナ首相の辞任の報が伝わり、喜ぶバングラデシュの市民ら(5日、ダッカ)=ロイター

学生らによる反政府デモが激化していたバングラデシュでハシナ首相が国外へ脱出し、政権が崩壊した。国軍や野党が協力して暫定政権を発足させ、早期に総選挙をするという。多くの死傷者を出した政変の収拾を急ぐ必要がある。

抗議活動は当初、独立戦争を戦った兵士らの親族に割り当てられる公務員採用の優遇枠撤廃を求めていた。ところが政権の武力鎮圧に反発が広がり、ハシナ氏の退陣要求へ発展した。デモ隊と治安部隊の衝突で、死者数が双方で計300人を超す惨事となった。

5日にはデモ隊が首相公邸などに乱入し、占拠した。ハシナ氏は辞任し、身の安全を確保するためインドへ逃れた。

国軍トップのザマン陸軍参謀長は野党と暫定政権を樹立するとし、デモ隊に破壊行為をやめるよう呼び掛けた。シャハブッディン大統領は議会を解散し、できるだけ早く選挙を実施すると述べた。

ハシナ氏は1975年に暗殺されたラーマン初代大統領の長女だ。海外での亡命生活を経て96年に最初に首相に就いた。2009年に返り咲いて以降、15年間にわたって長期政権を維持してきた。

縫製業やIT産業を育成して年6%前後の高成長に導き、26年には国連が最貧国に分類する「後発発展途上国」を脱する予定だ。その半面、野党弾圧や言論統制などの強権統治が目立ち、国民の間で格差への不満も広がっていた。

ハシナ氏率いる与党のアワミ連盟が圧勝した1月の総選挙は、主要野党がボイコットする中で強行した。今度の総選挙では、名実ともに民主国家へと生まれ変わるため、治安を維持したうえで自由・公正に実施してもらいたい。

伝統的な友好国のバングラに日本は最大の援助国として港湾や鉄道などのインフラ整備を後押ししてきた。同国は東南アジアと南アジアの結節点に位置し、日本政府が掲げる「自由で開かれたインド太平洋」の実現でも重要度が高い。政情安定や民主主義の定着のため最大限の協力をすべきだ。

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