ロシアでインフレ懸念が浮上している。ロシア連邦統計局は9日、2024年4〜6月期の国内総生産(GDP、速報値)が前年同期比で4%増だったと発表した。ウクライナ侵略に伴う軍需関連が伸び5四半期連続のプラス成長だった。戦時下でも好調な経済を受けてインフレ基調が再燃しており、ロシア中央銀行は利上げで過熱感を抑えようとしている。
GDPは5四半期連続でプラス成長
ロシア経済発展省がまとめた報告書によると、同期間は製造業が7.3%増となった。軍需関連とみられる化学や自動車などの伸びが目立った。国内生産の拡大が内需を押し上げる状況が続いており、非製造業では小売りが7.3%増加するなど拡大基調が続く。
24年通年もGDPはプラス成長が続く見通しだ。ロシア中銀は7月、24年通年のGDP成長率を3.5〜4.0%に上方修正した。国際通貨基金(IMF)も3.2%増とみており、23年に続く2年連続のプラス成長が見込まれる。
インフレ基調に、内需増と制裁によるコスト増で
ロシア中銀のナビウリナ総裁は7月26日の金融政策決定会合で、国内の消費など需要増に加えて「制裁措置に伴う新たなインフレ促進リスクが発生している」と今後の経済動向に懸念を示した。西側諸国による対ロ制裁の強化で、製品によっては輸送費などの調達コストが増加しているとみられる。
国内では物価の上昇基調が再燃している。24年6月のインフレ率は8.6%と1年4カ月ぶりの高い水準となった。ウクライナ侵略から1年が経過した23年4月には2%台に低下していた。
こうした状況を踏まえ、ロシア中銀は7月の政策決定会合で政策金利を2%引き上げて年18%とした。利上げは23年12月以来となる。政策金利の引き上げで物価高の抑制をはかる狙いだ。
中銀は今後の会合で「さらなる金利引き上げについて協議する」との見方を示し、一段の利上げに含みを持たせた。
中銀は政策決定会合時の声明で「内需の伸びが供給を大幅に上回る状況が続いている」と指摘した。中銀によると、24年末のインフレ率は6.5〜7.0%で推移し25年末には4.0〜4.5%に低下する見通し。26年以降は4%になるとみている。中銀はインフレ率を4%に引き下げることを目標にしている。
国内経済は好調で小売企業などが出店を拡大しているほか、商業施設などの建設も伸びており人材の奪い合いが続く。4〜6月の失業率は2.6%と四半期ベースでは過去最低水準に低下した。賃金の上昇で実質可処分所得は9.6%増えた。
長期化するウクライナ侵略、兵員の確保へ
ウクライナ侵略の長期化による人手不足も続いている。ロシアのメドベージェフ安全保障会議副議長は7月、志願兵である契約軍人の動向について「24年に入り約19万人が国防省と契約を結んだ」と兵員の採用を強調した。
兵員の確保に向け、契約軍人の報酬を増額する動きが鮮明になっている。モスクワのソビャニン市長は7月、新規の支援策として190万ルーブル(320万円)の一時金を支払うと発表した。こうした一時金支給の動きはロシア南部ダゲスタン共和国など各地で相次ぐ。
足元ではウクライナがロシア領内に越境攻撃する動きも出ている。8月に入り、ウクライナ軍はロシア西部クルスク州に数千人規模とみられる兵士が越境し同州の一部を制圧した。
ロシアが12日に開催した政府会合では、クルスク州のスミルノフ知事代行がウクライナ軍は国境から12キロメートル進軍したと報告した。ウクライナ軍はクルスク州の28集落を制圧し同州住民12万人超が避難したという。
プーチン大統領は会合でウクライナが「ロシア社会の結束を破壊することが目的」だと非難した。
ウクライナの越境攻撃を受けロシア通貨ルーブルは対ドルで軟調に推移している。12日には1ドル=91ルーブル弱と5月下旬以来の安値圏となった。中長期的に通貨安の基調が続けば輸入コストの増大につながり、経済への一層の重荷となる可能性がある。
[日経ヴェリタス2024年8月18日号]
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