イランはイスラエルへの報復攻撃に踏み切らないまま3週間が経過した(イラン最高指導者のハメネイ師)=WANA・ロイター

【ウィーン=福冨隼太郎】イスラム組織ハマスの最高指導者だったハニヤ氏殺害をめぐり、イランがイスラエルへの報復に踏み切らないまま3週間が経過した。表向きはパレスチナ自治区ガザでの停戦協議の行方を見守る姿勢を見せるが、イスラエルとの本格衝突を避けたい本音も透ける。

「(報復の)時期を決めるのは我々で、時間を要する可能性がある」。イラン革命防衛隊報道官は20日の記者会見でこう強調し、報復時期をさらに先送りする可能性に言及した。停戦協議を見極める姿勢を示したとみられる。

ハニヤ氏はイランのペゼシュキアン大統領の就任宣誓式に出席するためにテヘランを訪れているさなかの7月31日に殺害された。

支援勢力のトップを首都で殺害されたことに最高指導者ハメネイ師は「シオニスト政権(イスラエル)は客人を我々の家で殉教させた」と怒りをあらわにし、すぐさまイスラエルへの報復を宣言した。

米軍はイランの攻撃からイスラエルを防衛するため迎撃態勢を整え、イスラエルのネタニヤフ首相はイランの報復に対して「重い代償を科す」と警告。米高官が「数日内に報復する可能性が高まっている」と発言するなど、地域情勢をめぐり緊張が高まった。

4月1日にシリアのイラン公館が攻撃を受けた際、イランは報復として2週間足らずの13日に初のイスラエルへの直接攻撃に踏み切った。

今回、イランがイスラエルへの報復に踏み切らない背景には、報復の連鎖に陥り直接衝突に発展するリスクがあるためとみられる。巨大な軍事力を持つイスラエルと全面衝突となれば、低迷するイラン経済が打撃を受けて国内でも体制への不満が噴出しかねない。

ミサイルや無人機による4月の攻撃はほぼ全てが米軍やイスラエル軍によって迎撃され、イスラエル国内への損害は軽微だった。イラン側は意図的に迎撃しやすいかたちにしたが、今回の報復攻撃は4月の攻撃よりも大規模なかたちになるとの見方が広がっていた。イスラエルが迎撃に失敗し損害が出れば衝突のリスクはさらに高まる。

他のイスラム諸国の支持も広がりを欠く。7日にサウジアラビア西部ジッダで開かれたイスラム協力機構(OIC)の外相級会合でイランは報復に理解を求めた。しかし、サウジなどのアラブ諸国は地域情勢のさらなる不安定化を懸念し、報復への明確な支持はなかったとみられる。

調停案をめぐるイスラエルとハマスの立場の隔たりは大きく、停戦の実現は見通せていない。米国などが仲介する協議が失敗に終わればイランが報復攻撃に動く可能性はなお残っている。

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