スリランカの大統領選挙は
▽現職の大統領のウィクラマシンハ氏
▽野党「統一人民戦線」の党首プレマダーサ氏
▽野党の左派勢力「国民の力」を率いるディサナヤケ氏の事実上、3人で争われる構図となっています。

投票は、日本時間の午前10時半から一斉に始まり、最大都市コロンボの投票所でも有権者が次々と票を投じていました。

投票を終えた20代の女性は「新政権には、次世代の若者のために経済状況を改善してもらいたい」と話していました。

スリランカでは、前の政権による財政政策の失敗や、新型コロナの影響などでおととし深刻な外貨不足となり、事実上の債務不履行に陥りました。

その後、大統領に就任したウィクラマシンハ氏は、経済の立て直しに向けてIMF=国際通貨基金から支援を取りつけたうえで、増税や電気代などの値上げに踏み切りました。

しかし、国民からは生活が圧迫されるとして強い反発を招いていて、選挙では、現政権が進めてきた緊縮政策の是非が最大の争点となっています。

最新の世論調査では、緊縮政策の見直しを訴える野党のディサナヤケ氏が支持を広げていると伝えられていて、選挙の結果次第では、日本が主導してきた債務再編にも影響が及ぶ可能性があります。

投票は日本時間の午後7時半に締め切られたあと、開票される予定です。

スリランカの経済危機

スリランカはインフラ整備を進めるために借金を繰り返し、対外債務が膨らんだことに加え、新型コロナの感染拡大に伴う観光客の激減なども重なり、おととし深刻な外貨不足に直面しました。

急激な通貨安やインフレも追い打ちをかける中、燃料や食料、医薬品といった生活必需品の輸入も滞るなど市民生活も打撃を受け、1948年の独立以来といわれる経済危機に陥りました。

根本的な要因は、財政運営の失敗や汚職などがあるとも指摘され、政府の責任を問う市民の激しい抗議デモを受けて、おととし7月には、当時のラジャパクサ大統領が辞任に追い込まれる事態となりました。

その後、去年3月、IMF=国際通貨基金はスリランカに対して、4年間でおよそ30億ドル、日本円にしておよそ3900億円の金融支援を行うことを決め、新たに就任したウィクラマシンハ大統領は、増税や国有企業の改革など経済の立て直しに取り組んできました。

その結果、一時は70%を超えたこともあったインフレ率は、ことし7月には2.5%まで低下し、経済成長率もことし第1四半期はプラス5.3%と持ち直しています。

これについて、IMFは先月「経済改革プログラムは称賛に値する成果を上げている」として、経済の立て直しに向けた現政権の取り組みを高く評価しています。

物価高で市民は困窮

経済の立て直しに向けて、ウィクラマシンハ大統領が推し進める緊縮政策が一定の成果をあげる一方で、国民の間からは暮らし向きがいっこうに改善されないことに不満の声が高まっています。

背景には、コメや野菜、魚などの食料品の価格が高止まりしていることに加え、緊縮政策の一環で政府が増税や、電気代などの値上げに踏み切ったことがあります。

最大都市コロンボ近郊で暮らすシャミラ・イクバルさん(33)は、建設現場で日雇い労働者として働く夫の1か月の稼ぎ、およそ3万5000スリランカルピー、日本円にして1万6000円で2歳から10歳までの3人の娘を育てています。

食費や電気代などの光熱費もあがっているため、一度の食事の量を減らしたり、少しでも生活費に充てようと冷蔵庫などの家電を売ったりしてきましたが、借金はこの2年で日本円で16万円ほどに膨らんだということです。

借金の返済に困ることもあり、この先、娘たちを学校に行かせる余裕がなくなるのではないかと、不安を募らせています。

イクバルさんは「私たちは経済的にどん底に落ちました。政府は必要な措置をとるとしていますが、物価は上がる一方でなにも安くなりません」と話していました。

債務再編で日本の支援再開へ

深刻な経済危機に直面したスリランカは、おととし4月、対外債務を支払えなくなる、デフォルト=債務不履行に陥りました。

スリランカ政府によりますと、ことし3月末時点で2国間の債務の総額は105億8860万ドルで、このうち日本は23億5910万ドルを占め、最大の債権国である中国に次ぐ額となっています。

主要な債権国である日本やインドなどは債務問題の解決に向けた枠組みを主導し、ことし6月、日本を含む17か国が返済期限の延期に応じることでスリランカ政府と最終合意しました。

これを受けて、日本は債務の再編に関する2国間合意の締結に向けたスリランカ政府の意思が確認できたとして、ことし7月、経済危機以降、中断していた円借款による事業の再開を発表しました。

このうち、最大都市コロンボ近郊にあるバンダラナイケ国際空港で、JICA=国際協力機構がおよそ744億円の円借款を供与して、新ターミナルの建設など空港機能の拡張を図る事業も再開されることが決まりました。

JICAによりますと、今後は主要事業者を選定し、2028年ごろの完成を目指すということで、長年の課題となっていた空港の混雑を解消し、主要産業である観光の振興が期待されています。

スリランカ空港公社のアトゥラ・ガルケティヤ総裁は「新しい空港ターミナルは外国人観光客にとっての玄関口となり、観光業と経済の発展につながる」と話していました。

専門家「日本の債務再編に影響も」

スリランカ経済の専門家は、今回の大統領選挙について、現政権が推し進めてきた緊縮政策の見直しを訴える野党の候補者が当選した場合、日本が主導してきた債務再編にも影響を及ぼす可能性があると指摘しています。

スリランカ経済を研究している現地のシンクタンクのダナナト・フェルナンド氏は、NHKの取材に対し、「インフレ率や経済成長率などの指標からも財政改革は正しい方向に進んでいることは明らかだ」と述べ、IMFとの合意にもとづいて現政権が推し進めてきた緊縮政策が、一定の成果を上げていると評価しています。

ただ、政府が導入に踏み切った増税や電気代の引き上げなどによって、国民の負担は増し、所得が低い人たちの生活はとりわけ圧迫されているとしています。

そのうえで、IMFとの再交渉を掲げている野党の候補者が緊縮政策に不満を抱く国民の受け皿になっていると分析しています。

フェルナンド氏は、緊縮政策の見直しを訴える野党の候補者が当選した場合の考えられるシナリオについて、「債務の再編は、返済能力などに関するIMFの分析にもとづいて行われているため、日本などの債権国との交渉にも影響する可能性がある」と指摘しています。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。