軍事クーデターで政権を掌握した国軍と抵抗勢力の戦闘が続くミャンマーで、劣勢を強いられている国軍が無差別な空爆を繰り返し、民間人に多くの犠牲が出ている。空爆が多い地域の避難民キャンプでは、住民たちが床下に穴を掘って簡易な「防空壕(ごう)」を作り、飛来する戦闘機の音におびえながら暮らしている。(バンコク支局・藤川大樹)

ミャンマー北東部シャン州ペコン郡区の避難民キャンプで、床下に掘られた「防空壕」=地元住民提供

◆住居密集地に着弾 7人の子どもを含む9人が死亡

 「いったん北へ向かった国軍の戦闘機が約10分後、低空飛行で避難民キャンプ上空へ戻ってきた。次の瞬間、家が大きく揺れた」  北東部シャン州ペコン郡区にある避難民キャンプの学校で教壇に立つ女性教師(52)は、東京新聞のオンライン取材にそう振り返った。この学校には小学生から高校生まで約700人の児童・生徒が通っており、避難民キャンプには子どもたちが多く暮らす。  女性の証言によると、今月5日午後9時過ぎ、国軍の戦闘機が飛来し、重量500ポンド(約227キログラム)の爆弾2発を投下。1発は運動広場に落ちたものの、もう1発は住居が密集する場所に落ち、7人の子どもを含む9人が死亡し、約20人が負傷した。

◆深夜から夜明けにかけて

 避難民キャンプがあるペコン郡区はカヤ州との州境にあり、カヤ州の民主派武装組織「カレンニー国民防衛隊(KNDF)」の勢力圏だ。国軍はこれまでもKNDFとの戦闘が激しくなると、キャンプ周辺を空爆しており、女性教師は「今回で7回目だ」と怒りをにじませる。

爆弾の破片とみられる金属=地元住民提供

 国軍は最近、深夜から夜明けにかけて空爆を行うことが多いという。現地のジャーナリストは「理由はわからないが、軍は住民がぐっすり眠っている時間に奇襲攻撃を仕掛けたかったのだろう。空爆には最も予想外の時間だ」と語る。

◆床下に穴を掘って就寝

 このため住民たちは床下に穴を掘って、その中で寝ている。女性教師の家は爆心地から10メートルほどしか離れておらず、「『防空壕』にいなければ、間違いなく死んでいた」と述懐する。  爆弾が直撃した家には、母親と5人の子どもが暮らしており、いずれも死亡。女性教師が駆けつけたとき、母親はかろうじて息があり「助けてください」と頼まれたが、病院へ搬送する途中で事切れたという。

◆17日間で196回の空爆

 民主派が樹立した「挙国一致政府(NUG)」によると、国軍は8月15日から31日までの17日間で計196回の空爆を行った。9月以降も空爆は続いており、市民の犠牲は増えている。  空爆が最も多かったのは、民主派の武装組織「国民防衛隊(PDF)」が激しく抵抗する北部ザガイン地域で77回に上り、三つの少数民族武装勢力が一斉蜂起したシャン州(北部)が66回で続いた。空爆により、少なくとも31人の民間人が死亡し、68人が負傷。宗教施設18カ所、学校4校、病院1院、家屋36棟が破壊されたという。  NUGは「病院や学校、市民の家屋などへの意図的な攻撃は、ジュネーブ条約や国連安保理決議、国際人道法および人権法に違反する」などと批判している。  現地からの情報によると、国軍は9月1日、抵抗勢力に奪われた町や拠点の再奪還を目指して「ヤンナインミン(全ての敵を征服する王)」と称する作戦を開始。徴兵で地上部隊の増強を急ぐ。ただ、新兵は訓練不足のまま前線に送られることも多く、犠牲者が後を絶たないという。 

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