アルメニア系の旧占領地で引き渡された武器を検分するアゼルバイジャン軍人(2023年10月)=AP

旧ソ連構成国のアゼルバイジャンが隣国アルメニアとの係争地であるナゴルノカラバフで始めた軍事行動で、事実上勝利する形での停戦に合意してから20日で1年となった。両国の平和条約締結に向けた交渉に時間がかかっており合意には至っていない。

アルメニアはロシアへの批判を強めており、同国と距離を置く動きを一段と強める可能性がある。

アルメニアのパシニャン首相は16日、アゼルバイジャンとの交渉について「平和条約の文面の約80%に合意している」と述べた。今後も条約締結に向けて交渉を続けていく姿勢を強調した。

アゼルバイジャンのアリエフ大統領は先んじて9月に「我々は平和を達成することができる」と発言していた。同氏によると両国の国境線画定に関する交渉が進んだという。

交渉が長期化している背景にはアルメニアを通る輸送回廊などが課題になっているとの指摘がある。

アゼルバイジャンにはアルメニアに分断される形でナヒチェワンと呼ばれる西部の飛び地があり、アルメニア南部のイラン国境に沿って本土とナヒチェワンを結ぶ回廊の実現を目指している。アルメニア側は自国の主権を侵害するかたちでの回廊構想に抵抗していた。

2023年9月に起きたナゴルノカラバフでの戦闘では、アゼルバイジャンによる軍事行動でアルメニア系が実効支配していた行政府「ナゴルノカラバフ共和国」を24年1月に消滅に追いやった。

ナゴルノカラバフは国際的にアゼルバイジャン領として認められているものの、アルメニア系住民が多数派を占める。1991年からの紛争で優勢だったアルメニア側による事実上の独立政権が続いていた。

ナゴルノカラバフの約12万人の住民の大半が難民としてアルメニアに逃れており、現地メディアによると24年1月時点で11万5千人が避難しているという。アゼルバイジャンに戻ることを希望する避難民の扱いも和平合意の交渉課題になっている可能性がある。

アルメニア政府は避難民に対し、一時金の支給や住宅を取得するための支援策を打ち出した。現地メディアによると住宅を確保できる場所は農村部が多く、移住後の雇用先探しが課題になっているという。

ナゴルノカラバフを巡って、アルメニアはロシアが主導する旧ソ連諸国の軍事同盟、集団安全保障条約機構(CSTO)に軍事支援を求めた。CSTOが支援を見送ったため、ロシアを批判する動きを強めている。

アルメニア外務省は5月、CSTOの活動について24年は資金拠出をしない方針を示した。パシニャン氏は6月、具体的な日程には触れなかったもののCSTOから脱退する考えに言及した。CSTOにはロシアやアルメニアのほか、カザフスタン、ベラルーシなどが加盟する。

ロシアから距離を置くアルメニアに米国が接近する動きも起きている。7月には米軍がアルメニア軍とアルメニア国内で合同軍事演習を実施した。ロシアは米国などの動きに警戒感を強める一方でアゼルバイジャンとアルメニアとの和平交渉の仲介にも意欲をみせており、アルメニアをめぐる米ロの駆け引きが今後活発になる可能性がある。

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