【北京=石井宏樹】訪米中の上川陽子外相は23日、ニューヨークの国連本部で、中国の王毅(おうき)外相と会談した。上川氏が広東省の深圳日本人学校に通う男子児童が刺殺された事件を巡って明確な説明を求めたものの、中国側は詳細を明らかにしなかった。25日で事件から一週間を迎える。政治問題化を避けたい中国政府との議論がかみ合わず、中国の日本人社会の不安は解消されないままだ。

◆上川外相、反日投稿の取り締まり要求

 両国外務省の発表によると、上川氏は容疑者の動機を含む事実解明や日本側への説明、日本人の子どもに対する安全確保の具体的措置を強く要請。王氏は「冷静かつ理性的に対応すべきで、政治問題化や問題の拡大は避けるべきだ」と語った。上川氏によると、会談時間の多くは事件について割かれた。

19日午後、中国広東省深圳市の深圳日本人学校で、被害男児の冥福を祈り花を手向ける人=河北彬光撮影

 中国の交流サイト(SNS)上には、日本人学校を「スパイ拠点」などと表現する書き込みが散見される。上川氏は会談で「根拠のない悪質で反日的なSNS投稿等は子どもたちの安全に直結し、絶対に容認できない」として、取り締まりの徹底を求めた。中国外務省の林剣(りんけん)副報道局長は24日の定例記者会見で「SNS上の言論と事件を結び付ける人がいるが、安全リスクをあおり立てるもので事実に合致しない」と釈明した。

◆保護者ら困惑「何に注意すれば」

 中国では、6月にも江蘇省蘇州市で、日本人学校のスクールバスを待っていた日本人母子ら3人が襲われる事件が起きた。日本人の子どもを狙った犯罪なのかが最大の焦点だが、中国当局は対日関係全体への波及を警戒してか、今回の事件も含め「偶発的で個別の事件」だとの説明を繰り返している。情報提供は容疑者の年齢や職業にとどまり、動機を含めた事件の背景は公表されていない。
 北京では深圳市での事件後、日本人学校や日本人が通う幼稚園でスクールバスの運行見直しや警備強化、敷地外への外出自粛などの対応がとられている。子どもを幼稚園に通わせる母親は「何も情報が出てこないため、どの程度、注意すべきなのかが分からない」と困惑した様子で話した。  

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