アメリカ大統領選の副大統領候補による1日の討論会は、民主党のウォルズ・ミネソタ州知事、共和党のバンス上院議員が、互いの大統領候補の政策を巡って舌戦を交わす「代理戦」の様相となった。9月の大統領候補討論会のような激しい個人攻撃は鳴りをひそめ、両氏とも節度を保った議論で自陣営の援護射撃に終始。決定打には欠けた。(ワシントン・浅井俊典、鈴木龍司)

◆イランの核開発は誰のせい?

 「イランはカマラ・ハリス政権のおかげで凍結された1000億ドル(約14兆円)以上の資産を受け取り、その金で武器を購入して同盟国を攻撃している」

バンス上院議員(公式ホームページより)

 バンス氏は冒頭、あえて副大統領ながら「ハリス政権」と呼び、イランが1日にイスラエルに向けて弾道ミサイルを発射した攻撃は現政権のせいだとこじつけた。  実際にイランの海外資産1000億ドルの凍結を解除したのはオバマ政権。バイデン政権が2023年にイランと拘束者の交換をした際、解除した資産は約60億ドルだが、バンス氏が誇張した。  これに対しウォルズ氏は、イランが核開発を制限する代わりに欧米が制裁を解除する核合意をトランプ前政権が一方的に離脱したことで「イランの核開発が進んだ」と主張。緊迫度が増す中東情勢の混乱の責任を、相手になすりつけようとする攻防が続いた。

◆不法移民追求のバンス氏、ウォルズ氏は議会襲撃事件で反撃

 有権者の批判が根強いハリス副大統領の不法移民対策については、バンス氏が舌鋒(ぜっぽう)鋭く追及に出た。「2000万、2500万人の不法移民が国内にいる。そのうち100万人は何らかの犯罪をしている」と持論を展開し、「出血を止めなければならない」と政権交代の必要性を強調した。  ラストベルト(さびた工業地帯)の貧しい家庭で生まれ育ったバンス氏は、トランプ氏から白人労働者への訴求力を期待されている。不法移民を低賃金や住宅価格の高騰などとも結びつけ、責任をただした。

民主党大会で演説するウォルズ・ミネソタ州知事=8月21日、米シカゴで(鈴木龍司撮影)

 序盤は緊張が目立ったウォルズ氏は、2020年大統領選の敗北を受け入れず、議会襲撃事件を扇動したとされるトランプ氏への批判で反撃に転じた。「平和的な政権移行を覆そうとしたのは米国史上初めてのことだ」と述べ、今回の選挙でも同様の不安がくすぶっていると強調。視聴者を意識し、トランプ氏が民主主義への脅威だとして「防波堤はどこにあるのか」と迫った。

◆それぞれ好感度が10%以上アップ

 副大統領は大統領が死亡した場合などに昇格する要職で、討論会では後継者としての資質にも注目が集まった。このため、両氏とも討論会の開始前に握手を交わし、時には相手の意見に賛同する姿勢すら見せた。  CNNテレビが討論会後に実施した視聴者調査では、ウォルズ氏を好意的に評価するとの回答が討論会前よりも13ポイント上昇し59%に。バンス氏も同11ポイント上昇の41%と、互いに好感度を上げる結果となった。  ミシガン大のアーロン・コール討論部長は「現政権の中心がハリス氏であるように印象づけて批判したバンス氏がやや優勢だったが、議会襲撃事件を全力で追及したウォルズ氏も信頼感を高めた」と指摘。「両氏ともに大統領候補の補佐役という任務をこなし、ナンバー2の素質を示した」と評価した。 

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