北朝鮮の核・ミサイル開発に対抗するため強化されてきた日米韓の安全保障協力。韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)政権は推し進める姿勢だが、歴史的経緯から、日本との軍事的な協力への警戒感も国内では根強い。日米韓を鎖にたとえて「最も弱い輪」と言われる日韓の安保協力は、どこまで可能なのか。韓国国防外交協会の権泰煥(クォンテファン)会長と、文在寅(ムンジェイン)前政権で外務第1次官を務めた崔鍾建(チェジョンゴン)・延世大教授に聞いた。(聞き手=ソウル・木下大資、写真も)

◆「歴史問題を語るより、今直面する脅威に対する態勢の議論を」

 【保守陣営 権泰煥・韓国国防外交協会長】  —日韓の安保協力の意義をどうみるか。  北朝鮮の核の脅威が現実化しており、韓日の協力は時代的な要求だ。米国は、同盟・友好国と協力して戦争を抑止する「統合抑止」を安全保障の基本戦略としている。日本もその戦略に沿って反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有に向けた基盤を整えた。韓米日安保協力は、インド太平洋地域の国際秩序を維持する上で最重要な枠組みと言える。韓日の安保協力を強化することが、韓米日安保協力をけん引する原動力になるだろう。

権泰煥・韓国国防外交協会長(木下大資撮影)

 —韓国内では日韓の「事実上の同盟化」を警戒する世論が根強い。  韓国と日本は安保協力の程度によって同盟関係に準ずる効果をもたらすことができる。歴史問題や国民感情を考慮すれば、無理に同盟を結ぶ必要はない。一方で、有事の具体的な作戦計画を基に共同訓練をやってこそ抑止力につながる。私は韓日協力を作戦計画のレベルまで実現すべきだと考えている。  —韓国民が受け入れるだろうか? 日韓間で弾薬などの物資を融通し合う物品役務相互提供協定(ACSA)を結ぶことへの拒否感も強い。  態勢を整えて抑止力を備えるために、ACSAは必要だ。今は国会の多数を野党が占める状況で推進するのが難しいが、時がたつほど差し迫る北朝鮮の脅威に対処するため、国民的な共感を形成していかないといけない。70年以上前の歴史問題を語るよりも、今直面している脅威に対する態勢を議論すべきだ。日韓は共同の利益を考え、さまざまな懸案を率直に話し合えれば良いと思う。

◆韓米日の協力で「北朝鮮との対話」を

 【進歩(革新)陣営 崔鍾建・延世大教授】  —文政権は日韓の安保協力をどう考えていたか。  朝鮮半島の周辺海域で韓米日が合同訓練をやれば、北朝鮮に対するけん制や抑止というより中国やロシアに対する抑止になってしまうので、それは不必要なことだと考えていた。軍事的協力は、最高の信頼度を表すものだ。信頼は双方向でなければならない。そういう協力をするなら、当時日本が韓国に取った輸出規制は解かないといけなかったのでは。

崔鍾建・延世大教授(木下大資撮影)

 —韓国では、訓練のためであっても「自衛隊の朝鮮半島への進入」に対する拒否感が強い。  独島(トクト、竹島)を自国の領土と主張する日本の自衛隊が入ってきたら、韓国人は不安を感じる。韓国の領土や領海で訓練をやるには国民的な共感が必要だ。  —北朝鮮にどう向き合うかを巡って保守政権とは考え方が異なる。  北朝鮮に対する軍事的な抑止は必要だが、それだけで安定した平和は確保できない。対話し、交渉しないといけないというのがわれわれ進歩(革新)陣営の基本的な姿勢だ。尹政権は「降伏して対話に出てこい」という姿勢で、結果として北朝鮮がロシアと戦略的協力をせざるを得ない状況を招いた。軍事的な方法で朝鮮半島問題を解くことはできない。  —いずれかの国で政権交代があっても揺らがないように、日米韓は安保協力の制度化を進めている。  もし韓国が再び進歩政権になっても、韓米日協力というプラットフォームを捨ててはいけないが、その属性は変えられると考える。重要なのは北朝鮮にどう関与し、対話を支援するかという方向での協力だ。 

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