◆「270」を巡る攻防、大量の死に票が出る可能性も
有権者登録を済ませた18歳以上の国民は、「ハリス、ウォルズ」「トランプ、バンス」といった大統領候補と副大統領候補のリストに1票を投じる。これは「一般投票」と呼ばれる。カマラ・ハリス氏(左、8月撮影)とトランプ氏(7月撮影)
しかし、選挙は単純に全米での総得票数を競うのではなく、全米50州と首都ワシントンに割り当てられた計538人の「大統領選挙人」の獲得数を州ごとに競い、過半数の270人を得た候補が勝者となる。 各州の選挙人数は、連邦議会の上院議員(人口規模に関係なく各州2人)と下院議員(州人口に比例)を足した数だ。人口の少ない州の影響力や民意を反映させるためで、最少はアラスカやバーモントなどの3人。最多は州人口が最も多いカリフォルニアの54人。 ネブラスカとメーン両州を除き、最多票を得た候補がすべての選挙人を独占する「勝者総取り」方式を採用している。例えば有権者が約2000万人のカリフォルニア州で、A候補が1999万票、B候補が1万票取った場合でも、A候補が1001万票、B候補が999万票取った場合でも、A候補が54人の選挙人をすべて獲得する。これは、大量の「死に票」が出る可能性を示している。◆総得票で上回っても敗北した「ねじれ」、過去に5回
実際、これまで総得票数で上回りながら、選挙人獲得数で下回り落選する「ねじれ」が5回起きている。2016年選挙では民主党候補のクリントン元国務長官が、共和党のトランプ氏より一般投票で約280万票上回ったが、選挙人の数はトランプ氏306人、クリントン氏232人で、クリントン氏が敗北した。 大接戦の今回、ハリス、トランプ両氏とも過半数を獲得できずに、選挙人が269人の同数に終わった場合はどうなるか。合衆国憲法は、翌年1月招集の下院(定数435)による投票で大統領を選ぶと定めている。投票は1月6日に実施。票は州単位でまとめられ、当選には50州の過半数となる26票が必要となる。副大統領は上院が選ぶ。◆「選挙人」誕生の理由は?どんな人がなる?
複雑な間接選挙の仕組みは建国の歴史に由来する。建国当初、国民の識字率は低く、有権者が政治について知る機会も限られていたため、当時の指導者たちは、直接投票による大統領の選出に懐疑的だった。 今でこそ選挙人は、各州で政党が自治体の公職者や元政治家、党への貢献者などを事前に選びリスト化しているが、昔は読み書きや大局的な判断に優れた人たちが州議会による選挙などによって選ばれ、一般有権者に代わり投票していた。◆激戦州ばかりに注力する選挙に問題視
選挙人の数と一般投票の総得票数の「ねじれ」に加え、最近では多くの州で、民主、共和どちらが優勢か投票前にはっきりしていて、候補者が接戦が予想される一部の激戦州に資金や時間を集中的に投下することも問題視されている。 候補者が選挙運動でほとんど訪れない州も相次ぎ、ピュー・リサーチ・センターの調査(昨年7月)によると、選挙人の数ではなく、一般投票の総得票数で勝敗を決めるべきだとの回答は65%に上った。◆勝敗を決める7つの激戦州はどんな州?
今回の激戦州は、東部ペンシルベニア、中西部ミシガン、ウィスコンシン、南部ノースカロライナ、ジョージア、西部ネバダ、アリゾナの計7州。 ペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンは自動車製造や鉄鋼業でかつて栄えた「ラストベルト(さびた工業地帯)」の一角で、白人労働者が多い。もともとは民主党の牙城だったが、経済のグローバル化による工場の閉鎖などで衰退。2016年は「アメリカを再び偉大に」と訴える共和党のトランプ氏が3州とも制して勝利につなげた。ペンシルベニアは激戦7州の中で選挙人が19人と最も多く、両陣営が何としても獲得したい最重要州だ。 ノースカロライナとジョージアはかつて共和党が優勢だったが、人口増加で人種の多様化が進んだ。黒人有権者の割合が高く、ノースカロライナでは2008年のオバマ氏、ジョージアでは2020年のバイデン氏の勝利に勢いを与えた。 ネバダとアリゾナはヒスパニック系(中南米系)の有権者が多い。アリゾナは激戦州で唯一、メキシコと国境を接しており、不法移民対策に注目が集まる。ネバダはラスベガスを中心とする観光業が盛んだが、失業率やインフレ率が他州より高く、ハリス、トランプ両候補とも中低所得者層の支持獲得に力を入れる。本選挙(11月5日)の仕組み
・全米各州で有権者が投票
・州ごとに1票でも多い候補者が各州割り当ての「大統領選挙人」を総取り(メーン州とネブラスカ州を除く)
・全選挙人数(538人)の過半数270人を獲得すれば勝利
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