スマートフォンで見る超短時間のショートドラマが中国で中高年を中心に流行している。離婚や愛人など分かりやすい物語に加え、ビンタやののしり合いといった過激な内容が特徴だ。  日本の「昼ドラ」をほうふつとさせ、視聴者を引きつける一方で割高な視聴料や下品な表現、盗作の問題もはらむ。中国メディアからは「サイバードラッグ」との批判も持ち上がっている。(石井宏樹、写真も)

◆1話1~2分で全100話、市場は右肩上がり

過激な演出で中高年を引きつける中国のショートドラマ

 国家ラジオテレビ総局は、1話10分未満のインターネット上のドラマを「微短劇」(ショートドラマ)と定義している。実際には1話1~2分、計100話近い作品が主流だ。スマホの縦型画面に合わせて撮影し、通勤や家事の合間に気軽に見られる点が視聴者を引きつける。  調査会社によると、2023年のショートドラマ市場は前年比3.6倍の373億元(7500億円)と急拡大し、27年には1000億元(2兆円)に達する見通しだ。視聴者層は40~59歳が37.3%、60歳以上が12.1%と40歳以上が半数近くを占めるという。

◆「大富豪の電撃婚」5億回放送のヒット

 6月に公開された「閃婚50歳」(50歳の電撃結婚)は中高年向きの典型例で、計5億回放送される人気作となった。50歳の大富豪がタクシー運転手に身分を偽り、普通の会社員で45歳の女性とお見合いで電撃結婚するところから物語が始まる。大富豪だと知らない周囲の人が夫を侮蔑する発言をぶつけたり、女性に難癖を付けて暴行を加えたりと、1話ごとにさまざまな嫌がらせが展開される。大富豪の本当の身分を知る人が、裏で悪役に報復して問題を解決していく「勧善懲悪」の構成になっている。  最後に男性が富豪であることを妻に打ち明けてハッピーエンドで終わるかと思いきや、実は富豪の娘が女性の生き別れた娘であったことが判明。強引なストーリー展開だが、北京に住む40代の女性は「子育てに疲れた合間に見ると、すかっとしてはまってしまう」と魅力を語る。

◆途中から有料、高額課金の問題も

急成長の裏で浮き彫りになったショートドラマのマイナス面を紹介する中国メディアの報道

 ショートドラマは映画や通常のドラマと違って、有名な俳優は不要でスタッフも少なく、1週間程度で全話を取り終えてしまうという。ヒット作になると、公開1日で2000万元(4億円)を売り上げる例もあり、制作側にとってもうまみが大きい。  半面、スマホの知識に乏しい高齢者が過剰にお金をつぎ込んでしまうケースが問題視されている。「閃婚50歳」の場合、初めは無料で見られるが、途中から24~60元の有料登録を求められる。通常の動画サイトが月額25元(500円)で映画・ドラマを見放題であることを考えると割高感が強い。中国メディアでは、何種類も次々と有料登録をして薄給の中高年が短期間で5000元(10万円)を費やしてしまった例も紹介され、感情をあおるセリフや演出による精神的な悪影響を強調して批判する声が強まっている。

◆盗作や下品な表現に規制の波

 多くの業者が一斉に参入し始めたことで、盗作が疑われるような酷似したドラマが氾濫。暴力的、下品な表現もエスカレートしている。6月には国家ラジオテレビ総局がショートドラマに関する通知を発表。一連の取り締まり行為によって規制違反の作品が公開中止に追い込まれており、野放図に成長を遂げてきた中国のショートドラマにも規制の波が押し寄せてきている。 

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。