競技生活で撃つ、最後の一本。

アーチェリー選手・古川高晴さんの最後は、温かい拍手に包まれていた。

アーチェリー選手 古川高晴さん:みんなよろしくね、日本のアーチェリーを。俺の記録を一つでも抜いて。

■6大会連続で夏季オリンピックに出場し「レジェンド」に

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現役時代、数々の記録を打ち立てた古川さん。競技と出会ったきっかけは、意外なものだった。

アーチェリー選手 古川高晴さん:中学校の時に、たまたま弓道の試合を見かけたことがあって、一目惚れしてしまって。かっこいいな、やってみたいなと思ったんですけど、入った高校に弓道部がなくて、アーチェリー部しかなくて、同じ弓だからいいかなと思って入ったのがきっかけです。

何気なく始めたアーチェリーだったが、的に当たる爽快感に、夢中になった。

競技を始めて、わずか4年で「アテネオリンピック」に出場。

この頃の趣味は、なんとパソコンゲーム。オリンピアンとしては異色の存在だった。

そして「ロンドンオリンピック」で、初めての銀メダルを獲得すると…。

「東京オリンピック」では、史上初となる団体での表彰台。その後、日本勢最多に並ぶ“6大会連続の夏季オリンピック出場”を果たし、レジェンドと呼ばれるように。

東京五輪 団体銅メダル 河田悠希選手:6回五輪に出る選手って、これから出てくるのか分からないくらい、すごい選手だと思うんですね。

東京五輪 団体銅メダル 武藤弘樹選手:僕らは“兄貴”って裏で言ってて、本人に直接言ったことはないですけど、兄貴がいなかったらどうなるんだろうと話していたので。大事な大事な、大先輩だなと思います。

■「センスがないから努力する」毎日8時間の練習

古川さんの人生を大きく変えた、アーチェリー。しかし今年10月、志半ばで現役引退を発表。

アーチェリー選手 古川高晴さん:悔いとかではないですけど、金メダルをとってみたかった。ただ、競技を25年間やってきましたけど、手を抜かずにやってきたことを誇りに思います。

決して手を抜かなかった。そう言い切れるほど、古川さんの練習量は群を抜いていた。

毎日8時間、多い時は1日で約600本もの矢を打ち続ける。

練習場に最後まで残っているのは、いつも最年長の古川さんだった。

まっすぐにアーチェリーと向き合う姿勢はどこまでも徹底している。大きな大会の前は、必ず必勝祈願。

練習だけでなく、アーチェリーのためにできることは全部やる…。まさに努力の人だ。

アーチェリー選手 古川高晴さん:よくセンスとか、才能とかって言葉があるかもしれないですけど、僕はそんなにないと思います。自分はセンスがあるんだと思っていたら多分、向上心がなくなって、努力を続けられなかったかなと思います。センスがない分、まわりの人よりも努力して、その分補っていかないと勝てないかなと思いました。

自分に才能がないと思えたからこそ、アーチェリーと正面から向き合ってきた。

それでも、今年で40歳。自分にうそはつけなかった。

アーチェリー選手 古川高晴さん:僕自身が満足できない練習量になった時は潔く辞めようと思っていたので。満足に練習ができないのに、自信を持って、強いメンタルを持って戦わないといけないスポーツですけど、自信も持てない、練習もたくさんできない。自分で我慢できないと思いますし。毎日、朝から晩まで誰よりも(練習を)やって、やっと勝てるか勝てないかの勝負だと思うので。

引退発表後に臨んだ現役最後の大会では、結果はベスト16。たくさんの花束を抱え、温かな拍手に包まれた。

■アーチェリーで「全ての面で成長できた」

久しぶりに親子水入らずの、のどかな時間。

アーチェリー選手 古川高晴さん:パパ、“いっぽん(アーチェリー)”終わったの分かる?

古川さんの長男(3歳):分からない。

アーチェリー選手 古川高晴さん:分からない?もう、おしまい。

最後の大会から4日後。古川さんの姿は、練習場にあった。

早くも、母校・近畿大学のコーチとして第2のアーチェリー人生を歩み始めていたのだ。

アーチェリー選手 古川高晴さん:先に決めて、手の力が抜けてから戻す。

技術だけを教えるのではなく、競技に取り組む姿勢の大切さを、後輩たちに伝えている。

アーチェリー選手 古川高晴さん:自分のした努力で他人の人生が変わるようなことがあればいいなと思います。寄り添うというか、やらせるよりも自分でやる気を出して、練習をしてくれるほうが何倍も気持ちは強いので、そういう働きかけが上手にできればいいと思います。

これまで自分のためにしてきた努力を、これからは後輩たちのために。

アーチェリー選手 古川高晴さん:アーチェリーはあなたにとって何ですか?と聞かれたら、『自分自身を成長させてくれるもの』と今までも答えてますけど。全ての面で、人間的にも、肉体的にも成長できたのがアーチェリーだと思っています。僕自身がアーチェリーが大好きだっていう気持ち、エネルギーでここまで来られたと思います。

一途な気持ちは、これからも。

後輩たちを育てることが、アーチェリーへの何よりもの恩返しだ。

(関西テレビ「newsランナー」 2024年11月20日放送)

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