一般ドライバーが自家用車を使い、有償で乗客を送迎する「ライドシェア」は中国やタイなどアジア各国で拡大している。一方、韓国では一度始まった事業が、短期間で断念に追い込まれた。各国の実情を探った。

タイ・バンコク近郊のスワンナプーム国際空港に設けられたグラブ乗り場=藤川大樹撮影

◆中国ではホワイトカラーの7割が利用、業者間の競争が激化

 中国でライドシェアは「網約車(ネット予約車)」と呼ばれ、約10年前から普及し始めた。ホワイトカラーの7割が利用しているとの統計もあり、大都市では日常的に利用されている。  配車アプリの一つ「美団」の場合、出発地と目的地を入力すると配車業者や価格が一覧表示され、より高価格帯の候補を加えれば配車が受けやすくなる。支払いは降車後に自動で引き落とされるためトラブルが起こりにくい仕組みだ。  多くの地域では一定期間の運転経験や無事故無違反であれば運転手になれるため、専属だけでなく週末の副業として働くというケースも多い。雇用の受け皿としても期待され、2023年には市場規模が前年比19%増の5000億元(約10兆円)に達した。  ただ急成長の反動で業者間の競争が激化して供給過多となり、中国メディアは「昨年1万元(約20万円)あった月収が7000~8000元に減った」と嘆く運転手の声を伝える。運転手が配車業者に支払うマージンの高さや、事故時やトラブル時の保障も不十分という問題点も指摘されている。(北京・新貝憲弘)

◆タイではマレーシアやフィリピンと同じアプリが利用可能

タイ・バンコク近郊のスワンナプーム国際空港に設けられたグラブ乗り場=藤川大樹撮影

 タイでは、シンガポールに本社を置く配車サービス大手「グラブ」のライドシェアが庶民の足として定着。面倒な料金交渉やぼったくりの心配がないため、観光客やタイで暮らす外国人も重宝している。  バンコクではメーター制のタクシーが多いが、トラブルが少なくない。夜間や混雑時には乗車拒否や、値段交渉に持ち込もうとする運転手もいる。観光客にとっては言葉が通じず、目的地までの説明が難しい。  グラブのアプリの地図には運転手の現在地や到着時間、車のナンバーなどが表示され、運転手とメッセージをやりとりもできるため、行き違えることはほぼない。初乗り35バーツ(約140円)のメーター制タクシーに比べれば、やや割高だがトラブルは格段に少ない印象だ。  グラブはタイ以外にもマレーシアやフィリピン、インドネシアなどでサービスを展開。アプリはそのまま使える。(バンコク・藤川大樹)

◆韓国では業界の反発で挫折

 韓国では日本と同様の法律により、ライドシェアは基本的に禁止されている。例外規定に着目したベンチャー企業が18年、11人乗りワゴン車を使った配車サービス「タダ(韓国語で『乗る』の意味)」を始めたものの、タクシー業界が反発。20年に当時の与党が通称「タダ禁止法」を成立させ、同社はサービスの見直しを余儀なくされた。労働組合を支持基盤に持つ革新系の文在寅(ムンジェイン)政権により「イノベーションが阻まれた」との批判もあった。(ソウル・木下大資) 

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