2024年11月19日、中国・福建省で行われた中国代表対日本代表の北中米ワールドカップアジア最終予選。中国のホームとなったこの試合には多くの中国人サポーターがスタジアムに詰めかけたが、試合は3対1で日本代表が勝利した。現在、中国代表の最終予選の戦績は2勝4敗と苦戦が続いている。

「人口14億人いるのに11人が見つからない」

そんな中国代表に対して、中国のネットメディア「捜狐」は、「中国の人口は14憶人いるのに、ワールドカップに出場するための11人が見つからない」という記事を掲載した。

記事では「中国代表は欠陥だらけ」とし「中国サッカー協会は効果的かつ長期的な計画を持っていない」「男子代表の精神とスタイルに問題がある」などと厳しい言葉が並び、現在の中国サッカー界を酷評した。

実際、ネットメディアの記事に象徴されるように、中国代表を始めとする中国サッカー協会には国民からも厳しい目が向けられている。特に中国サッカー界が抱える問題の1つに「中長期的な育成年代の指導」が挙げられる。チームの監督に何よりも求められるのは「結果」であり、育成年代の試合でも勝利至上主義がまん延している。

このため、体の大きい子供、足の速い子供が優先して試合に出るようになり、身体的能力を前面に押し出してプレーするそのサッカーは、時としてファウルが多くなり“カンフーサッカー”とやゆされることも少なくない。

汚職がはびこる中国サッカー界…救世主になれるか

また、中国サッカー協会に長年はびこる“カネ”の問題にも国民からは厳しい目が向けられている。

指導者時代の李鉄被告(李鉄被告の公式ウェイボより)
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12月13日、中国湖北省の裁判所は元中国サッカー代表監督の李鉄被告(47)に対して代表監督になるための贈賄や、代表選手選考にあたっての収賄など合わせて約25億円の贈収賄を認定し、懲役20年の一審判決を下した。さらに李鉄被告が中国のサッカーチームの監督時代に八百長行為もしていたと認定した。

一連の事件では、中国サッカー協会の前会長も2024年3月に無期懲役を言い渡されるなど、協会幹部を中心に10人以上が一審判決で有罪判決を受けるという前代未聞の事態となった。

中国サッカー協会のトップ宋凱会長(2024年12月)

こうした中で、2024年10月に中国サッカー協会のトップに就任した宋凱会長は「技術ベースの指導理念」を掲げ、中国サッカー界に変革を起こそうとしている。

FNN北京支局は12月上旬、雲南省昆明市で集中トレーニングを行っていた中国男子16歳以下代表チームの視察に来ていた宋凱会長に日本メディアとして初めて話を聞いた。

2024年2月に中国16歳以下代表監督に就任した上村健一氏

中国男子16歳以下代表チームの監督は、Jリーグのサンフレッチェ広島でディフェンダーとして活躍し、オリンピック代表や日本代表の経験もある日本人の上村健一氏だ。宋会長は上村氏の起用は自分が決めたと語る。

参考にしたのは“東洋の魔女”の名将・大松博文氏

――なぜ、日本人の上村氏を中国の育成年代の代表監督にしたのでしょうか?

まず、監督を選ぶ際にサッカー先進国の監督を起用するという方針を立てました。そのため、日本人だけでなく韓国人、そしてヨーロッパ先進国の監督も候補に入っていましたが、その中で上村監督は過去に中国で指導者としての経験があり、そのクラブでの評判や実績も非常に良かったこともあり、私が起用することを決めました。

FNN北京支局の取材に応じる宋会長

また、中国のバレーボール界は1964年の東京オリンピックで金メダルを獲得した女子バレーボールの名将・大松博文氏からトレーニングや指導方法を学び、その後、オリンピックや世界選手権で優勝するという成果を出しています。この経験は私がサッカー界においても日本人監督を起用する決意を固めた理由の1つになっています。

中国16歳以下の代表選手に練習の説明をする上村監督 

上村監督を起用することを通じて、日本の指導者のトレーニングや選手の管理方法を身近で観察することができます。上村監督を起用してからこのチームは非常に良い成果が出ていると感じています。

アジアカップの予選を勝ち抜いた中国16歳以下代表チーム(2024年10月撮影・提供:中国サッカー協会)

――日本人である上村監督の指導方法を見てどのように感じていますか?

まず、試合の戦績を見ると今年10月に行われた17歳以下のアジアカップ予選で結果を出し、本大会への進出を果たしたことにサッカー協会の皆が満足しています。このチームが試合で見せた技術、戦術のレベルや全体のプレースタイル、さらには各選手のパフォーマンスは中国サッカー界に希望と自信をもたらしました。

アジアカップの予選を勝ち抜いた中国16歳以下代表チーム(2024年10月撮影・提供:中国サッカー協会)

また、上村監督はこのチームに対してサッカーの技術向上だけでなく、日常生活の管理についても非常に力を入れていると聞いています。

日本人監督には特徴があり、1つは細部へのこだわり、もう1つは辛抱強いことです。この2点を私は非常に評価しています。現在、20人以上の日本人指導者が中国各地のチームで指揮を執っていて、私は上村監督だけでなく他の日本人指導者にも我々と共に中国サッカー界の発展を促進してほしいと願っています。

日本サッカーから謙虚に学ぶ

――現在の中国代表チームをどのように見ていますか?

中国チームの視点から言えば、11月19日に福建省で行われたワールドカップアジア最終予選で我々は良い姿勢で日本との試合に臨むことを見せました。日本代表に対して前回の0対7から今回の1対3という試合結果は、進歩していると言えるでしょう。しかし、同時に日本代表との大きな差を痛感しました。

中国16歳以下代表チームの選手たちにアドバイスを送る宋会長

このため、私たちは日本サッカーから謙虚に学ぶ必要があると強く感じています。中国と日本、韓国がお互いに切磋琢磨し、中国サッカー界が発展し追い付くことにより、アジアサッカー界全体の発展に繋がると確信しています。

結果のために“なりふり構わず”

一方で、早急に結果を求めるために現在の中国代表チームにブラジル人を始めとする複数の外国人を帰化させプレーさせるということも検討されている。この動きに対しては一部で歓迎の声もあるが、中国SNS上では多くの反対意見が見られる。

上村監督の指導を見守る宋会長

宋会長から16歳以下の代表チームの監督に任命された上村健一監督は、中国サッカーについて「人口14億人いる中国のサッカー界は可能性の塊」と話し、「中国には多くのポテンシャルを持っている子供たちが存在し、この子供たちが育成年代から良い指導を受けて適正な競争原理の中で切磋琢磨していけば、世界を驚かせる時は早く来る」と分析している。

帰化選手は一時的には中国サッカー界に寄与することはあっても、自国の代表選手の席を奪うことになり、長期的に見れば逆効果になることもあり得る。

中国16歳以下の代表選手たち

結局、代表チームの成功に近道はなく、育成年代への適切な指導とサポート、そしてそれを支える協会のガバナンス強化など、地道に一つ一つの問題を根本的に見直し、解決することによってのみ成し遂げられるのだ。

今後、中国サッカーは強豪国になることが出来るのか。その未来は中国のサッカー界に携わる一人一人の意識改革にかかっている。
(FNN北京支局 河村忠徳)

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