駅名看板は、旧駅舎で使用していたものをそのまま活用し、歴史をつないでいく=三重県玉城町田丸で2024年4月3日、小沢由紀撮影

 世紀を超えて親しまれながら、2023年夏に惜しまれつつ解体されたJR参宮線の田丸駅(三重県玉城町)の駅舎が新たな姿に生まれ変わった。駅のほか、交流施設としての機能も備わり、幅広い活用が期待されている。

 旧駅舎解体後、建設が進んでいた駅舎を兼ねた「田丸駅交流施設」が完成した。旧駅舎の意匠を引き継いだ木造瓦ぶきの平屋建てで、県産材を用いたきざみ囲いの外壁や朱色の柱がアクセント。3日にオープニングセレモニーが開かれ、辻村修一町長は「大正、昭和、平成、令和と1世紀以上にわたり親しみ、歴史を刻んできた。この場所を町の核となる情報発信と交流の場として活用していきたい」とあいさつした。

 田丸駅は1893年に参宮鉄道(津―宮川)が開業した際に設置され、旧駅舎は1912年に建てられた平屋の木造建築だった。郷愁誘う趣があり、県にもゆかりのある小津安二郎監督の映画「浮草」のラストシーンの撮影にも使われた、町のシンボル的存在として、長く地元で愛されてきた。

 だが、老朽化は避けられず、JRは解体を決定。町は同駅舎を歴史的価値があるとして保存しようと努めたものの、耐震診断で倒壊の危険が高いことが判明し保存を断念せざるを得なかった。

 一方で、町は「再生」も模索した。駅舎跡地をJRから借りると、昨年9月から駅舎機能のある交流施設の建設を進めてきた。

 新たに完成した建物は、駅の待合を兼ねた交流施設として活用する。旧駅舎で使用していた「田丸駅」の看板や入り口の扉、土台となる束石をそのまま利用している。また、レンガの一部も花壇に再利用している。施設の面積は107・64平方メートルで、総事業費は7287万5000円。

解体される前の田丸駅の旧駅舎。110年にわたって親しまれてきた=三重県玉城町田丸で2021年1月21日、小沢由紀撮影

 外観に旧駅舎の面影を残す一方、内部には待合スペースのほか、新たに交流スペースや玉城町観光協会の案内事務所が設けられた。交流スペースには町の情報を発信するデジタルサイネージ(電子看板)や写真や作品を展示できるピクチャーレールを設置し、ワークショップやイベントなど幅広く活用することができ、町民に利用を呼び掛けていく。エアコン、無料Wi-Fiも完備し、一角には自動販売機があり、町の特産物を販売したい考えだ。

 生まれ変わった新たな駅舎に人々が行き交い、集いながら、新たな歴史が生み出されていく。

 近くの玉城郵便局(同町佐田)は、田丸駅交流施設の開館を記念して駅舎をモチーフにしたオリジナルデザインの小型印(消印)を、期間限定で押印する。30日までに田丸駅前のポストに投函(とうかん)するか、同郵便局に持参した郵便物が対象。問い合わせは、玉城郵便局(0596・58・3075)へ。【小沢由紀】

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