小田急電鉄で運輸司令所長などとして安全運行に貢献してきた中村誠さん=海老名市

さまざまな分野で功績をあげた人たちに贈られる秋の叙勲の受章者が発表された。神奈川県内からは旭日章に38人、瑞宝章に195人の計233人が選ばれた。発令は29日。小田急電鉄で運輸司令所長などを歴任して鉄道の安全運行に長年携わり、瑞宝単光章を受章した中村誠さん(63)=秦野市=に受章の喜びを聞いた。

海老名市にある小田急のロマンスカーミュージアム。展示されている車両を見上げ、「ここにある車両は大体運転しましたね」と懐かしんだ。

昭和54年に小田急に入社した。自動車関連企業を希望していたが、小田急沿線に住んでいた縁や親の勧めで進路を決めた。

初任地は下北沢駅。乗車券の販売などの駅務を1年ほど務め、先輩からの助言で車掌試験を受け、電車の乗務員に。運転士の試験も合格し、都内や相模原市の区間を担当した。

その後は、現場の管理職として、事故対策に関する業務監査や、踏切事故などの賠償請求をする渉外にあたった。安全第一の鉄道員にとっては信号は絶対であり、日常生活にも染みついている。「短い横断歩道でも、赤信号は渡らない。赤で進むのは違和感しかない。職業病ですね」と笑う。

平成26年には運輸司令所長に就任した。運輸司令所は運転士や車掌などの乗務員や駅に指示を行う司令塔。事故などの運行にかかわる情報が相互直通運転をしている他社のものを含めて、全て入ってくる。

所長となった中村さんは情報収集担当を増員した。スマートフォンの普及などで誰もが簡単に情報を得られるようになる中、「運行トラブルに際し、乗客は『何が起きたのか』という情報を求めるように変化していた」からだ。事故の発生から10分以内で現場の乗務員による状況報告、他の列車の運行への影響、振り替え輸送の案内をまとめて乗客に伝える体制を整えた。

相互直通が当たり前となっている首都圏では、他社の事故も運行に影響を与える。相互直通の一時取りやめや遅れを取り戻す回復運転を指示し、運行を正常化させる。「お客様に迷惑をかけないようにするのが最優先」と話す。

31年に安全・技術部調査役に就くと、台風などの際に「運休の可能性」を48時間前に周知し、24時間前には詳しい運転計画を公表する計画運休のタイムラインの作成に携わった。前年の大型台風で複数の鉄道会社が相次いで計画運休を実施したことを受けた災害対策で、「お客様に行動を判断してもらうためで、これも大切な情報だった」と振り返った。

令和3年に定年退職し、現在は丹沢大山国定公園内にある大山でケーブルカーを運行する大山観光電鉄(伊勢原市)の取締役として安全管理を統括している。「ケーブルを巻き上げて動かすという仕組みに違いはあるが安全は同じ」。安全のスペシャリストとして、乗客の無事を守り続けている。(高木克聡)

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