パリ五輪の男子マラソン代表に内定している大迫傑(32、ナイキ)は、アメリカに拠点を置き、一人トレーニングに打ち込んでいる。五輪本番前のレースには「いいシミュレーション」になると、15日(日本時間)に行われるボストンマラソンを選択。3大会連続(マラソンでは2度目)の五輪出場を内定させた大迫の心境を聞いた。

家族を日本に残し、一人アメリカへ

大迫がいるのは標高2000mを超えるアメリカアリゾナ州のフラッグスタッフ。3月下旬も銀世界という街だ。チームメイトなどはおらず、月に1度所属コーチが訪れるくらい。この場所に自宅を購入した大迫は、家族を日本に残し、一人練習を積んでいる。

一人でトレーニングをする大迫選手

石井大裕アナウンサー:高いところでやるのは改めて、どういったことが理由になるんですか?

大迫選手:ケニア人選手なんかもそうですけど、高地トレーニングのように酸素が薄い中でやると、ランニングエコノミーが大雑把に言うと向上するというところで、年間の半分以上はこういったところでトレーニングするように心掛けています。

石井:この場所でずっと培っていくと孤独になるというか寂しくなるというか・・・

大迫:もちろん寂しくなる時もありますし、日本に戻るといろんな人と会ったりする、そういう状況から急に一人になると、しばらくはその環境に慣れない部分はあります。でも群れているよりかはいいかなとは思いますね。群れの中にいるのが好きじゃないというのもありますね。狼でいたいというか、ずっと最近そういうのを思っていて。狼っぽくないですか?

石井:ちょっとね、狼っぽく見えてきました。野性味も含めて。

大迫:本当はさみしがりやで集団の中にいたいんですけど、でも自分の目指す姿としてはかっこいい狼でいたいからこういうところにいて人間力を高めて行くことに集中している。多くの勝っているランナーがそうだと思うんですけど、一貫性とか規律というか 行動・練習の一貫性を持ったりとか、規律を作っていくことによって、結果的に一貫したトレーニング、思考、目標設定ができるようになるんじゃないかなと思います。太い幹の部分ですかね。

石井:一番太い幹というのはなんでしょう?

大迫:これは陸上を始めた中学校の頃から変わらない「速く走りたい」っていう超シンプルなところが幹になるんじゃないですかね。

小さな成功に固執しない

石井:走る街によって、気持ちが上がるというかね、あるわけですね。

大迫:今回、コースの概要を見たんですけど、特にスタート、フィニッシュ辺りは、街を走るっていう風に聞いたので、その辺も楽しみな部分かなとは思いますね。

石井:石畳の古いヨーロッパの景色と共に戦いが始まっていく訳ですもんね?

大迫:そうなんですよね。走りやすいコースって別にオリンピックじゃなくても走れるというか。なので、正直石畳とかアップダウンがあるのは走りにくいんですけど、でもこういったオリンピックじゃないと走れないコースではあると思うので、その辺の他にない難しさもありつつ、それが逆に自分のモチベーションになるっていうのは、多くの選手がある部分じゃないかなと思います。

石井:やっぱり走りにくいっていう中だと、タイムというよりは、勝ちに行く。勝ちに行くレース、これは大迫さんにとってはどういうものなんですか?

大迫:一昔前だと勝ちに行くレースと速いレースってちょっと分かれていたんですけど、今は割とそれがあんまり差がなくなってきているので、どういうレースになるかちょっと分からない部分。ただ、勝負を分ける要因が多くなるっていうことに関しては、僕にとっては非常にプラスのことなんじゃないかなと思います。

石井アナウンサーと大迫選手

石井:東京オリンピックでは 6 位。御自身の中でも6位以上っていうね、コメントもあったんですけど。

大迫:ありましたっけ?そんなの?

石井:言っていたんですよ(笑)

大迫:何か最近も良くないなと思っているのが、東京オリンピックもそうですけど、過去の良いレースをした自分みたいなのが自分の周りにあると、どうしても今の自分に集中できないというか。色んなマラソンで良かった自分、悪かった自分、まあまあな自分みたいなのがいると思うんですけど、そこをあんまり考え過ぎると今の自分に集中できなくなってしまうので、特にどういうプロセスを経て、ここに出たかっていうのは大事ですけど、それにこだわり過ぎずに今日、もしくは今週、今月どういったベストなトレーニングが目標に向けてできるかみたいなのに集中してるのが現在地点かなと思います。

石井:アスリートによっては自分の良かったものを何度も見返したりとか、いわゆる一つのイメージトレーニングをしたりすると思うんですけど、大迫さんはそういうことしないんですか?

大迫:良かった自分が適用するのって、オリンピックの金メダリストだけだと思うんですよ。どの枠で考えるかによると思うんですけど、日本記録を出した(18年と20年に2度記録)とか、このレースで良かったみたいな、そういう小さな成功に固執している人は結構多いと思うんですよね。自分自身もそういうふうにはなりたくないなと思ったんで。常にチャレンジャーである以上は自分自身に執着しないで今の練習に集中しようと思っています。

石井:さらっとおっしゃいましたけど日本記録を出したことは小さなことなんですか?

大迫:世界と比べて考えた時にその差ってほんとに縮まっているのかとか、どこの山をのぼっているかによると思っていて。僕は高校生の頃から世界一の山を登っていこう、わかりやすくいうとエベレストに登っていこうと、日本から準備をして海外に出て。何メートルまで到達したかわからないですけど、でもそういう視点がない人って富士山が世界一の山だと思っているので。富士山を登っていけばその先のエベレストを登れると思っている。ただ景色がキレイで、でも多くの人が登れる山は価値がなくて。そういう視点の気づきというのは常に持っておかないといけないなというか。自分がどういった方向に歩いているか非常に大事だなというのは自分のやりたい海外でのトレーニングを活発にやったりという中で色々と感じることが多かった。

大事なのは“固執しない”

大迫:ボストン(マラソン)を選んだ理由っていうのは、アップダウンが多いというところもありますし、特に理由は大きな理由はないんですけど、自分がこう走ったら、何が一番自分のためになるのかなとか。オリンピックも最初に登って下るコースだと思うんですけど、ボストンマラソンのアップダウンの多いコースなので、いいシミュレーションにはなるかなという思いですね。

大迫選手

石井:やっぱりオリンピックっていうのは自分でペースを作っていって勝負していく。色んな戦い、駆け引き、常に柔軟に対応をしなきゃいけない部分も大きくなってくると思うんですけど、その柔軟性という部分に関してはどう捉えています?

大迫:シンプルに捉われないというか、固執しないっていうところは大事かなって。あとは受け入れるっていう言葉が僕の中では一つキーワードかなとは思います。色んなことに当てはまるかなと。マラソンって屋外の競技でいわゆる自然と向き合う訳ですけど、じゃあ雨が降ったら走らないのかとか、雨が降ったら嫌な気持ちでするのかとか、風が吹いたら向かい風、追い風ありますけど、外部の要因で凄く変わると思うんですけど、でも内部の心っていうのは、恐らく受け入れたら常に同じ努力値で出来ると思うんですよね。
そういうのがコンスタントに結果を出したりとか、一つチャンスがある時にそれを掴むことに繋がるんじゃないかなと思っています。

石井:自分自身の中で変化していくことも大事なわけですよね?でも規律も必要だっていう。

大迫:そこら辺が何かちょっと難しいというか。あまり変化していい部分とブレちゃいけない部分。僕自身が世界と戦いたいっていうところは一貫してブレないことですし、ただそこに向けて細かい調整っていうのは、やはり柔軟に対応していかなきゃいけないですし、太い幹っていうところの部分ですかね。一貫性とやっぱり規律を持たなきゃいけない部分は、他の部分は、どう花が咲いたら綺麗かって、たくさんのパターンがあるじゃないですか。

そこは色々と自分の中で、今回こういう風にされた方が、実がなった方が綺麗だなとかって思う時もありますけど。でもそれって太い幹で、まっすぐ伸びていればいいですけど、しっかり根っこがはっていないと、そういうものって作れないと思うので、そういう芯を一貫性を持って、規律を持って作っていくってことが一つ大事なことなんじゃないかなと思います。

石井:パリ五輪というのをどう捉えているのかというのが、僕らも気になっていたんですけど。

大迫:(3月3日の)東京マラソンが終わって内定が決まったことは非常に嬉しいことですし、かなりポジティブに頑張りたいなという気持ちが出てきたというのは正直なところですね。

石井:今回のパリ五輪でご自身が登ろうとしている山というのはどんなものになるんですか?

大迫:今山を登り続けている途中で、上に行けば行くほど標高も高くなっていく。あまり上の方まで見えていないというか。今はしっかり足元を見て登っていく作業に徹底していけたらと思っています。
マラソンを走ることって困難にぶち当たることと一緒。必死な走りになると思うんですよ、さすがに。コースもきついですし。そんな頑張りを見てもらえたらと思います。

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