男子3000m障害日本記録保持者の三浦龍司(22、SUBARU)がパリ五輪代表に内定した。5月10日のダイヤモンドリーグ(以下DL)・ドーハ大会で8分13秒96で5位。昨年の世界陸上ブダペスト入賞者(三浦は6位)は、24年に入ってからのパリ五輪参加標準記録(3000m障害は8分15秒00)突破で五輪代表に内定する。三浦はドーハでその選考基準をクリアし、19日のDLマラケシュ大会(8分21秒74で14位)後に帰国。5月31日に群馬県太田市で取材に応じ、パリ五輪の目標を「メダル獲得」と改めて明言した。

過去3年間の世界大会戦績から3位争いに加わるチャンスあり

DLドーハ大会の1000m通過は2分42秒6(主催者計測)。これは日本記録の8分09秒91(23年DLパリ大会)を出したときとほぼ同じ。後半の走り次第では8分0秒台中盤を狙えるペースだった。そのタイムを出せば、自信を持ってパリ五輪に臨むことができる。

「ペース設定がそれぐらいになるレースだと思っていました。(1000m通過タイムは)必然かなと思います。ラスト1000mが伸びなかったのは、自分の力不足です」今回のDL2連戦で課題も確認しつつ、パリ五輪での戦いに向けて、以下のようなプラス材料も得ていた。

「3位以下のメンバーが固定化されてきています。パワーバランスやメダルのボーダーラインもわかってきたので、そこを崩していきたい。何て言ったらいいか難しいのですが、少し自分の目線を上げられればパリ五輪でも可能性が大きくなる」

三浦が3位以下のメンバーと言ったのは、この種目には誰もが認める2強がいるからだ。21年の東京五輪、22年の世界陸上オレゴン、そして昨年の世界陸上ブダペストと3大会連続金メダルのS・エル・バッカリ(28、モロッコ)と、その3大会全てで銀メダルのL・ギルマ(23、エチオピア)の2人である。勝ち続けているのはバッカリだが、タイム的には7分52秒11の世界記録を持つギルマが、7分56秒68(世界歴代9位)のバッカリを上回る。いずれにしても2強の牙城は崩れそうにない。

だが銅メダル選手は東京五輪がB.キゲン(30、ケニア)、オレゴンはC.キプルト(29、ケニア)、ブダペストはA.キビウォト(28、ケニア)と毎回変わっている。2強は3大会連続メダル獲得をしているが、3回入賞している選手は他にいない。2回入賞選手も三浦を含め4人だけである。

「選手それぞれに走り方の個性があるので、自分に合った走り方をして、最大限のパフォーマンスをした選手が(メダル争いに)勝つと思います。それが誰かは予測不可能です。2強以外の選手は似た力の勢力図の中にいると思うので、レース展開次第で大どんでん返しもあると思います」

誰が混戦の3位争いを制するのか。2強対決の行方に加えて、銅メダル争いがパリ五輪男子3000m障害の注目ポイントになる。

三浦が世界で通用する理由とは?

三浦がメダルを意識し始めたのは「東京五輪から」だというが、その手応えはDLを連戦することで大きくなった。DLは単日開催では世界最高レベルの大会で、世界各地で行われている。三浦は一昨年のローザンヌ大会4位、チューリッヒ大会4位、昨年のパリ大会2位、厦門大会7位、ユージーン大会5位、そして今年のドーハ大会5位と上位をキープし続けている。それらの経験からメダルを取るために何が必要か、肌で感じられるようになった。

「(主にトレーニング面で)今までやってきたことを継続してやることと、自分の特徴や武器に磨きをかけることに集中するしかないのかな、と考えています」

SUBARUチームが作成した冊子には、三浦の特徴が掲載されている。中間走では可動域の大きい肩甲骨を有効に使い、上半身がブレない走りがエネルギーロスを防いでいる。障害の前では距離認識と歩幅調整のセンスがスピードアップを可能にしている。これは観戦していても明らかにわかる部分だ。

小中学生時代にはハードル種目にも出場した経験を持ち、ハードリング自体が長距離選手としては格段に上手い。障害を越えた後の接地でもブレることがなく、素早く加速に移ることができる。そしてラストスパートは世界トップレベルである。

勝負どころで世界トップ選手たちに対応する方法とは?

それらを駆使して世界と戦うわけだが、レースはどんな展開になるか予測がつかない。日本記録を出した昨年のDLパリ大会は、ギルマが世界記録を出したレースで、先頭集団は8分を切るペースで進んだ。三浦はその集団から距離を置いて自分のペースを守って走り(といってもかなりの高速ペースだが)、後半で落ちてくる選手を抜いてDL2位の快挙を実現した。

その一方で集団の先頭を引っ張る距離が長すぎたことで最後まで持たず、「(前の選手に)1秒届かなかった」ことも何度か経験した。スローな展開からペースが上がったとき、前を追うタイミングを一瞬躊躇したことで、予選を突破できなかった世界陸上オレゴンの例もある。

レース中にどう反応するのが正解なのか。自身の状態を見極める必要もあるし、相手の余力や得意なレース展開にも左右される。その部分への対応は「直感的なところはある」が、レース経験からの判断が重要だと三浦は考えている。

「レースの流れの傾向のようなものはあります。この選手が前に出たらこうなる、という部分はあるので、そこを見ながら、その時に臨機応変に対応することが大きな部分を占めると思います」

東京五輪ではその対応を、20歳の勢いだけで行って7位と、この種目日本人初の入賞を達成した。翌年の世界陸上オレゴンは前述のように対応に失敗して決勝進出を逃したが、昨年の世界陸上ブダペストは、世界で戦い始めて3シーズン目の経験も生かして6位に入賞した。パリ五輪ではさらに経験を生かして自身の特徴を発揮することで、男子トラック個人種目では日本人初の五輪メダル獲得に挑戦する。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)

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