今大会、釧根地区から3年連続で単独チームで出場するのが根室だ。

 本土最東端に位置する北海道根室市は、人口約2万2700人に対し、約1万頭もの乳牛が暮らす、日本有数の酪農地帯だ。にもかかわらず、「高校生になると牛乳を飲まなくなる」。そんな話を聞いて、地元の酪農家たちが立ち上がった。

 球児にとって、体づくりは強くなる上で欠かせない。根室高校野球部でも、細身の選手が多い中、少しでも体を大きくしようと冬のトレーニングシーズンを中心に、週に5~6回プロテインを飲んでいた。

 水で割った味の薄いプロテインに、大きな変化が起きたのは昨年12月のこと。学校に週に1度、500ミリリットルの紙パック牛乳が数十本単位で配布されるようになってからだ。

 牛乳で割ることで、ティラミス味や、チョコ味とバナナ味をブレンドした選手オリジナルのチョコバナナ味が濃厚な味わいになったという。

 チーム内でも特に飲みっぷりがいい及川一狼(いちろう)選手(2年)は「オフシーズン中ほぼ毎日飲んでいたので筋肉が大きくなった」と力こぶをつくって見せた。大熊朝陽主将(3年)も「地域の方々から牛乳を提供してもらえるのは、本当にありがたい。大きくなった体で大きくプレーすることを意識して、勝利をめざしたい」と意気込む。

 提供のきっかけは、根室地区集落協定委員会の役員間での世間話だった。「高校生は『飲む機会がない』という理由で牛乳を飲まなくなるらしい」。根室市内では、小学校や中学校など義務教育の間は、給食でJA道東あさひから牛乳が提供されるため、当たり前のように飲む習慣がついているという。

 しかし、高校からは給食がなくなる。「高校生にももっと牛乳や乳製品を飲んでもらいたい」。委員会の代表を務め、自身も酪農家である大森誠さんの強い思いもあり、急斜面の土地や、積算気温が低いなど、農業に不利な条件の土地での農業生産活動を支援する「中山間地域等直接支払制度」という国の事業として、根室高校への牛乳の提供が始まった。

 事務局として、高校に牛乳を届けるJA道東あさひ根室支所の市橋晴美営農課長は、根室高校の卒業生だ。在学時から、野球部はなかなか人数が集まらず、いつも連合チームで戦っているイメージがあったという。「牛乳・乳製品を飲んで、まずは1勝。せっかく単独で出られるのだから、全道に根室の名前を知らしめるくらい頑張って欲しい」。

 3年生8人が2年前に入部してからようやく悲願の単独出場がかなうようになった根室高校。きょうの初戦、地域の期待のこもったミルクパワーで標茶戦に挑む。(鈴木優香)

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