(11日、第106回全国高校野球選手権東東京大会2回戦 竹台0―14実践学園)
初出場となった夏の大会初戦で、昨夏8強の実践学園と当たった竹台。試合の主導権を終始、握られて大敗した。たが、悔しさよりも試合に出られた喜びが勝った。
3点、1点、5点。初回から毎回、点を奪われた。点を取られても、取られても、先発投手の及川聖央(3年)は投げ続けた。コールド負けが頭をよぎり始めた三回裏、三塁を守っていた主将の石井敬太(3年)はマウンドの及川のもとへ駆け寄った。
「大丈夫だよ、落ち着いて」
そう笑いかけると、及川の顔にも笑みが浮かんだ。少し安心し、三塁に戻った直後。石井が捕球しようとした打球が手前で跳ね、こめかみに直撃した。石井はその場にうずくまり、担架で運ばれた。「何が起こったのか、分からなかった」
夏の大会での単独出場は、竹台の3年生3人の悲願だった。
1年半前、竹台には硬式野球部どころか、同好会すらなかった。昨年4月、昭和から異動してきた藤原将貴監督が創部に奔走した。最初に声をかけられたのは、野球経験があった石井。バドミントン部で一緒で、野球経験があった及川と水野叶翔(3年)も引き込み、同好会を作った。
学校のグラウンドは建て替え工事で使えず、狭い通路で練習を重ねた。練習メニューもネットで一から調べて作った。
4人の熱意が認められ、同年12月、野球部に昇格。次は、夏の大会に単独チームとして出ることが目標になった。
9人を集めるため、藤原監督は新入生を懸命に勧誘した。今春、1年生9人が入部し、道が開けた。
3人が目標にしてきた夢の舞台だから、最後までみんなと戦いたかった。石井は治療後、ベンチに戻ってきて、大声を出し続けた。水野は左翼を守り、及川は四回裏まで力投をみせた。五回でコールド負けしたけど、3人は戦い抜いた。
試合終了後、藤原監督は3人について「野球を通して成長してくれただけでなく、3年生がチームをここまで引っ張ってくれた」とねぎらった。そして、「彼らを巻き込んだからには、最後の舞台は単独で出させたかった。学生野球の聖地である神宮球場という最高の舞台で、意地をもってやってくれた」と、目元を抑えながら話した。
石井は「藤原先生が来てくれて、野球ができる環境になって本当にうれしかった」と振り返った。「この3人、後輩たちと野球ができてよかった」。最後は大粒の涙を流した。=神宮(佐野楓)
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