持ち味生かせなかった東京大会 “借り返す”
背中などの体の柔らかさから「猫レスラー」とも呼ばれた文田選手。
最大の持ち味は強じんな体幹と柔らかさを生かした「そり投げ」です。父親の敏郎さんの指導のもと、磨き上げてきました。
ところが東京大会では決勝でその投げ技を有効に使えずに敗れて銀メダル。
試合後は人目もはばからず号泣し、その後は「オリンピックの借りはオリンピックでしか返せない。そのことばをしっかり胸に刻んで次は笑ってマットを降りれるようにしたい」と雪辱を誓いました。
投げを封印し堅実なスタイルに変更も…
パリ大会で確実に金メダルを獲得するために東京大会後はこだわってきた投げを封印し、守りを固めて堅実にポイントを重ねるスタイルに変更。
ところが去年の世界選手権の決勝でキルギスのゾラマン・シャルシェンベコフ選手に豪快に投げられて敗れると再び心境に変化がありました。
勝利にこだわりすぎていたことで本来のレスリングの楽しさを忘れていたことに気付かされたといい、「守りを固めるスタイルにはしっくりきていなかったが、世界選手権の決勝はネガティブな状況なのに楽しかったんです。試合を通して『グレコってこうだろ』と教えてもらった感じだった」と話しました。
たどりついた“ハイブリッド”に自信深め
そしてたどりついた結論が「攻撃と防御、どちらかに固執するのではなく両方のいいところを」という“ハイブリッド”ともいえるスタイルを取り入れることでした。
こだわってきた投げによる「攻撃」と東京大会以降に鍛えてきた「守備」の技術を融合させようと考えたのです。
以降は投げのパターンも増やしました。
後ろに反らす「そり投げ」だけにこだわらず、首を抱えて前に投げる「首投げ」も有効に使えるよう実戦練習を繰り返してきました。
一方で組み合ってこない相手には割り切って守りを固めながら着実にポイントを積み上げる戦い方にもさらに習熟していきました。
「今の自分にすごく合っている」と、この新たなスタイルに自信を深めてパリの舞台に臨みました。
ライバルに決めた「そり投げ」
象徴的ともいえる強さを示したのが5日の準決勝。
待っていたのは世界選手権の決勝で敗れたシャルシェンベコフ選手でした。
前半、消極的な姿勢によるペナルティーによって腹ばいの状態で相手の猛攻を受けますが手堅く守って追加のポイントは許しません。
後半は積極的に攻め相手が前に出てきたところで得意のそり投げで4ポイントを奪い逆転しました。
そして、このリードを守って勝利を奪い“ハイブリッド”スタイルが間違いでなかったことを証明しました。
試合後はマットにうずくまるシャルシェンベコフ選手と肩を抱き合い「彼に負けたことで自分のレスリングに磨きがかかった。感謝を伝え、『あしたは2人で勝ってこれが真の決勝だったと言えるようにしよう』と声をかけた」といいます。
そして頂点に
「3年分の思いをすべてぶつけたい」と臨んだ続く決勝では、自分のレスリングの礎を築いてくれた父親の敏郎さんに、いつもそばで支えてくれた妻の有美さん、去年誕生した長女の遙月ちゃんら支えてくれた人たちからひときわ大きな声援が送られました。
試合では相手の消極的な姿勢によるペナルティーをきっかけに3ポイントを奪うと強引な投げは控えて守りを固めてリードを守りきり、3年前に届かなかった金メダルをついに手にしました。
勝利を告げられた瞬間に両手を突き上げて喜びを爆発させた文田選手。手を振るまな娘の姿を見ると観客席に手を振って喜びを分かち合いました。
そして「家族の存在がなかったら東京大会のあとにもう1度オリンピックを目指そうとは思えていなかった。世界一のパパを見せるという大事な目標はクリアできた。この瞬間をしっかり共有したい」と喜びを表した一方で「長い時間かけて目指してきたので、このメダルは今まで取ったどのメダルよりも重たい」とかみしめるようにも話しました。
敗戦から得た教訓で
日本勢として男子グレコローマンスタイルでは40年ぶりの金メダルという快挙も成し遂げた文田選手。
敗戦から得た教訓を“ハイブリッド”という新たな戦い方に昇華させて3年前の雪辱を果たし、支えてくれた家族に最高の結果で応えました。
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