変わりつつあるオリンピックのあり方

32競技329種目が実施されるパリ大会では、出場選手の男女の比率を50%ずつにするという目標を掲げ、男女がチームやペアを組んで争う混合種目も前回の東京大会から2つ増えて、20種目となりました。

混合種目として新たに採用されたのは、陸上の混合競歩リレーセーリングの混合470級で、いずれもこれまで行われていた種目を減らして新たに追加されました。

混合種目は、東京大会で陸上の混合1600メートルリレーや競泳の混合400メートルメドレーリレー、それに柔道の混合団体など9種目が追加されました。

一方、パリ大会では実際に出場がなかったもののこれまで女子しか出場できなかったアーティスティックスイミングのチームで、男子が2人までエントリーできるようになりました。

また女子の種目に注目してもらおうと、これまでは最終日に実施されていた男子マラソンが、今大会は女子マラソンと入れ替わるなど、ジェンダー平等の観点からさまざまな面でオリンピックのあり方が変わりつつあります。

セーリング混合470級で銀メダル

混合種目となったことで世界トップレベルまで登りつめ、新たに導入されたパリ大会で銀メダルを獲得したのが、セーリング、混合470級の岡田奎樹選手と吉岡美帆選手のペアです。

セーリングの470級は、ヨットの全長が4.7メートルで座って「かじ」を取りながら帆を操る「スキッパー」と、ヨットの前に乗って帆を操る「クルー」の2人乗りで競う種目です。

選手2人の合計の適正体重が130キロ程度とされていることから、強豪のヨーロッパ勢に比べて体格の小さい日本勢に適している種目と言われていて、日本は過去のオリンピックで2つのメダルを獲得していました。

混合種目にかけた2人

3年前の東京大会までは、男女それぞれで行われていましたが、パリ大会からは男女の混合種目となり、ともに国内トップ選手だった岡田選手と吉岡選手は、東京大会のあとに「金メダルを目指す」とペアを組みました。

特に吉岡選手は、男子選手と組む中でフィジカル面の重要性を感じたということで、その差を埋めるために筋力トレーニングや瞬発力を高めるトレーニングに力を入れてきたということです。

吉岡選手は「男子選手と組むので、スピードについていかなければならないし、パワーも釣り合うように頑張らなければいけない。結構、苦労はしてきたが、年々、自分もレベルアップできているなと実感している」と話していました。

そして、国内トップ選手の2人が練習を重ねてきた結果、2023年8月の世界選手権で金メダルを獲得するなど、混合種目となって世界トップを狙える強豪ペアとなりました。

パリ大会に向けて岡田選手は「コンスタントに勝ち続けられているペアは、結果としてオリンピックのメダルを取っているので、過去の選手にならうと、自分たちもそうした立場になっているのかなと思う」と自信を示していました。

そしてそのことばの通り、パリ大会でも力を発揮しセーリングでは日本勢20年ぶりのメダルとなる銀メダル獲得を果たしました。

東京五輪6位入賞 川野選手の葛藤

陸上の混合競歩リレーに出場した川野将虎選手は男子50キロ競歩の日本記録保持者で、東京オリンピックでは6位入賞を果たすなど長い距離を得意としていました。

しかし、オリンピックでは男子のみが実施されていた50キロ競歩は、ジェンダー平等の理念から東京オリンピックを最後に実施されないことが決まりました。

その代わりとしてパリオリンピックでは当初、男女それぞれが35キロを歩く混合種目が行われる予定でしたが、去年4月、混合種目の距離を変更することが発表され、男女でマラソンと同じ42.195キロをリレーして歩く方式になりました。

これについて川野選手は「長い種目を専門としてきて、それを得意にしてきたので短い距離に対応していくというのは本当に難しいことで、正直そのメンタル的にも苦しい時期が続いた」と振り返ります。

東京オリンピックのあと川野選手は35キロ競歩に挑戦し、2022年の世界選手権では銀メダルを獲得し去年の世界選手権でも銅メダルと結果を出してきました。

個人種目では20キロ競歩でパリ大会の出場を目指しましたが、ことしの日本選手権でわずかな差で4位となり、最大3人が出場できる個人種目での出場はかないませんでした。

混合競歩リレーのメンバーには選ばれましたが、「競技に対してモチベーションがなかなか上がってこなかった」と苦しい胸の内を明かします。

競歩が混合種目になることの意味

それでも、川野選手は混合種目が競歩で実施されることになった意味を改めて考えたということです。

そして東洋大学時代から酒井瑞穂コーチから指導を受けて実力を伸ばしてきたことを踏まえて「男女の格差をなくそうという意味も込められて今回開催される種目に、女性コーチに習ってこれまでメダルを取ってきた自分が出場できることにはとても縁を感じている。特別な思いを持って大会に臨めている」とオリンピックの舞台に立ちました。

迎えたレース本番で川野選手は最初の11キロあまりを2番手につけてリレーするスピードを見せ、次の出番でも粘りの歩きで最後まで前を追いかけました。

そして、岡田久美子選手と組んだペアは初めてのこの種目で8位に入賞しました。

種目は変わってもオリンピックで2大会連続の入賞を果たした川野選手は、レースのあと「今回のオリンピックでは1年前のタイミングで種目が変更になるという本当に変化が多い3年間だった。どん底の時にも多くの人に支えてもらって競技ができていると感じている。今大会の経験を宿題として持ち帰ってまた頑張っていきたい」と再び前を向いていました。

アーティスティックスイミングは男子も可能に

今回のパリオリンピックでは混合種目の増加とは別に、これまで女子選手しか出場資格がなかったアーティスティックスイミングのチームに、男子選手が2人までエントリーすることができるようになりました。

すでに世界選手権では、男女でペアを組む混合デュエットなどが行われ、男子選手にも門戸が開かれていましたが、オリンピックで男子選手の出場が可能になったのは今大会が初めてでした。

男子選手がチームに入るとダイナミックなアクロバティック技などでパワーが生かされるとされていますが、世界的にも競技人口がまだまだ少なく、パリ大会では男子選手の出場はありませんでした。

日本でも、去年の世界選手権の混合デュエット、テクニカルルーティンで、パリ大会にも出場している佐藤友花選手と弟の陽太郎選手が金メダルを獲得するなど、男子選手がじわじわと出始めています。

ただ男子の選手登録数はまだ20人余りにとどまるということで、日本水泳連盟は男子選手の育成を進めようと年2回程度、講習会や体験会を開いて、すそ野の拡大を図っています。

今の選手にチャンスが巡ってきた

ことし4月に千葉県で行われた講習会には4人の小学生が参加して、日本男子の第一人者で2019年の世界選手権の混合デュエットで銅メダルを獲得した経験がある安部篤史さんから、立ち泳ぎや音楽に合わせた演技などの指導を受けました。

この日、初めてアーティスティックスイミングを体験した小学5年生の男の子は「楽しかったので来てよかった。今後も機会があればやってみたい」と話していました。

講師を務めた安部さんは、オリンピックに男子選手が出場できるようになったことについて「オリンピックに男子選手の種目が入るということは、すごく意味のある大きな変化だと思う。今の選手にチャンスがようやく巡ってきたんだなという時代の流れを感じる」と話していました。

そのうえで「まだ講習会も参加者の数が少ないので、それはこれから私たち競技経験者が頑張らなければいけない」と普及へ向けた思いを語っていました。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。