(17日、全国高校野球選手権大会3回戦 大社―早稲田実)

 第1回の地方大会から出場を続ける皆勤15校の一つである大社(島根)。選手権大会では107年ぶりとなる2勝を挙げて3回戦に進んだ。その躍進を支えるのは、選手の主体性とそこから生まれた「昭和っぽい」練習だ。

 「何を目標にするのか。目指すところをしっかり見ないと歩めない」。昨夏の新チーム発足時、石飛文太監督(42)が選手に問うた。「何が何でも、甲子園」、さらには「何が何でも、甲子園でベスト8以上」。選手たちが掲げた目標だった。「よし。何が何でも、というなら、必要なことは全部やれ」

 就任当初は「管理野球」だった。初めて指揮をとった夏、2021年の島根大会は決勝に進んだが、無安打無得点で大敗。22年夏も初戦で敗れた。その後から方針を変えた。

 試合でも「選手が必要と考えることをやる」と徹底し、サインは「行けるか?」と目線を送りながら出す。ノーサインでの盗塁も歓迎だ。

 そういった采配ができるのは、日ごろから選手の中に溶け込んでいるから。「いい打球!」「明日出番あるねえ、これは!」打撃練習では、部員とともに守備について全力で白球を追って盛り上げる。

 石原勇翔(はやと)主将は「試合中も『21人目の選手』でいてくれて。自分たちにとってはありがたい」と歓迎する。

 そんな現チームから生まれ、ここぞの勢いにつながっているのが「昭和デー」と呼ばれる練習だ。

 きっかけはひょんなことだった。今年4月の「昭和の日」、下級生中心のチームの練習中に雨が降ってきた。しかし「まだノックを受けたい」と泥まみれになっても続けた。

 当然、ミスも出やすくなるが、誰かがうまくさばけると全員で盛り上がる。ミスをしても「次こそは!」とさらに熱量が上がる。水が浮かぶグラウンドで泥だらけになりながら笑顔でボールを追う控えメンバーを見て、石原主将たちは思った。「あれ、いいな。オレたちもやってみたい」

 その後は月に1度ほど、練習中に雨が降ると「今日は昭和デーだ」。1時間ほどグラウンドでノックをするようになった。石飛監督も含め、全員で大声を出しながら泥まみれで白球を追った。

 「楽しむだけではなくて、不利な環境や士気が下がりそうな場面でも盛り上がれる雰囲気をつくるためでもあった」。石原主将はそう意図を説明する。

 泥の中から培った精神力は、大舞台にも生きている。エースの馬庭優太投手(3年)は「明るく緊迫感を持ってできるようになって、本番に強くなった。応援が大人数でも、緊張せずに自分たちプレーを元気よくできている」と胸を張る。

 2回戦の創成館戦でも、中盤まで失策が重なって追いかける展開となったが、終盤は攻守ともに粘り、逆転勝ちに結びつけた。石原主将は「ただの守備のチームならエラーすると大概崩れてしまうと思うけど、エラーしても崩れないのは『昭和デー』が生きている」と話す。

 強豪校との試合が続くなかでも、大社の部員はぶれない。石原主将は「泥臭く、執念を持って最後までやり切れば、どんなに強いチームでも絶対にいい勝負に持って行ける自信がついた」と語る。(中川史、黒田陸離)

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