(19日、第106回全国高校野球選手権大会準々決勝 東東京・関東第一2―1神奈川・東海大相模)
トランペットの独奏による「必殺仕事人」のテーマが終盤に差し掛かると、金属バットの打球音が響き渡った。
両チーム、スコアボードに0が並んで迎えた七回表、関東第一の攻撃。先頭は、4番で主将の高橋徹平(3年)。対するのは東海大相模のエース、藤田琉生(3年)。藤田の初球のチェンジアップだった。バットを振り抜き、左中間席に運んだ。
360度の大歓声のなか、満面の笑みでダイヤモンドを回りながら、拳を突き上げた。「やっと、チームのために打てた」。藤田を打ち崩せずにいたチームに貴重な1点をもたらした。
8年ぶりに出場を決めた今春の選抜大会直前。練習試合で左足をねんざした。走り出す1歩目にためらいを抱えたまま、「ぶっつけ本番に近い状態」(米沢貴光監督)で大会に臨んだ。
八戸学院光星(青森)との初戦は延長にもつれ込む接戦になった。十一回表、三塁線への強い打球をさばき二塁に送球したが、焦りから球が高くそれ、追加点を与えてしまった。試合はそのまま敗れた。
その悔いを、最後の夏への力に変えた。「甲子園へ忘れ物を取りに行く」と守備の練習を増やし、バットも気が済むまで振り込んだ。東東京大会では2本塁打を放ち、6試合10打点。通算60本塁打に達し、甲子園では強打者として注目された。
だが、甲子園入り後、自分のスイングができなくなった。これまでの2試合で2安打0打点。ただ、「バッティングが無理なら守備で貢献しよう」と気持ちを切り替えた。
値千金の本塁打は、その守備から生まれた。六回裏、無死一塁で打席には藤田。「投手だから、(バントで)送りたいってきっと思っている」。前進守備を取ると、予想通りのバントで、三塁線に転がってきた球を冷静に捕球し、併殺にした。
本塁打が出たのはその直後。高橋は「あそこでダブルプレーできたからこそ、あの打席につながった」と振り返った。
試合後、米沢監督は高橋のこれまでの苦しみを思い、賛辞を送った。「打つんだったら彼しかない。ここまで我慢して我慢して、苦しんだ。よく打ってくれた」。高橋は「チームが打てずにいる状況で打つのが、4番でキャプテン。この1本に満足せず、また一戦必勝で戦いたい」。主将が攻守で躍動し、9年ぶりの大舞台に挑む。(佐野楓)
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。