全国高校野球選手権大会の本部委員として運営に尽力してきた富沢渉さん(69)=元群馬県高校野球連盟理事長=が、今夏を最後に勇退した。

 「最後まで諦めない高校生の全力プレーから、明日への元気、勇気をもらってきた。人生諦めちゃいけないんだって、教えてもらった」

 2016年から本部委員を担い、チームの引率やアルプス席での応援マナー指導、取材の付き添いなどにあたった。特に大変だったのは応援指導。相手に威圧感を与えないようタオルやメガホンは振り回さない、相手に敬意を払い「○○倒せ」といった応援はしないなど高校野球ならではのマナーがあるからだ。

 さらに気を遣ったのは安全面だ。アルプス席で応援する人たちがけがをしないよう、吹奏楽の生徒らは柵の近くに着席してもらい、周りを囲むようにグラブを持った野球部員を配してボールから守る。試合ごとにアルプス席を内野側の部屋から観察したり、直接出向いたりして、運用が守られているかを確認する。

 「打てばいい、勝てばいい、だけではない高校野球の姿が、100年先へ続いていってほしい」

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 東村(現東吾妻町)生まれ。小学3年の夏、テレビで見た高校野球に心を奪われた。群馬の古豪・桐生と下関商(山口)の準々決勝。桐生は1―2で敗れたが、「ドラマチックな負け方。高校野球って面白いなあ」。

 高校教員になり、29歳の時に渋川西(現渋川青翠)で念願の監督に。部員らを乗せたマイクロバスを運転し、練習試合をこなした。10人前後の部員と、ともに野球に打ち込むのが楽しかった。

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 他校の野球部部長や県高校野球連盟の理事を務めたあと、2001年に県高野連理事長に就任。甲子園の本部委員制度を知り、県内にも同じような仕組みを導入した。退職した元高野連役員に声を掛け、大会でグラウンド整備や駐車場案内、チケット販売などを手伝ってもらった。手慣れた先輩たち。「心強く、頼りになった」という。

 メディカルサポート体制も作った。群馬大学医学部と連携し、整形外科医による投手の肩ひじの検査や理学療法士によるけが予防のトレーニングに取り組んだ。夏の群馬大会では、高校生を一人でも多く表舞台に立たせようと、それまで理事がこなしていた司会や先導役に高校生を起用した。

 県内では今も大会運営を陰ながら支える。「余分な口出しはせず、あくまで現役の方たちのサポートに徹する」。もうしばらく、裏方として汗を流すつもりだ。(中沢絢乃)

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