スポーツ文化の研究や情報ネットワーク化を通して、自由にスポーツを楽しめる環境作りに取り組んでいる日本スポーツ学会が選ぶ今年度の「第15回日本スポーツ学会大賞」に、世界少年野球推進財団理事長を務める王貞治氏(84)が決まった。来年1月25日には早大・大隈記念講堂で、会員以外のファンらも入場可能な授賞式とインタビュー、質問コーナーがある。
言わずと知れた一本足打法でプロ野球巨人の現役時代に868本塁打を放って「世界のホームラン王」と呼ばれた王氏は、引退後に巨人、福岡ダイエー、福岡ソフトバンクで監督を歴任。2006年第1回WBCでも日本代表監督として優勝を勝ち取り、現在はソフトバンク球団取締役会長。名球会顧問も務めている。
先月には、今後100年を見据えた野球振興を目指して国内のアマ、プロ各団体へ呼びかける「球心会」の発足も発表したが、それらに先立って長年取り組んできたのが今回、受賞の対象となった世界少年野球大会の活動だ。
友人だった米メジャーの本塁打王ハンク・アーロン氏(21年死去)との間で交わした、「我々が体験した野球の素晴らしさを次世代の子どもたちに伝えよう」との会話がきっかけとなり、1990年に米・ロサンゼルスで第1回大会を開催。その後、コロナ禍での延期はあったものの、今夏、王氏ゆかりの福岡県で第30回大会が開催された。
日米のほかカナダ、プエルトリコ、台湾でも開催されてきた大会は例年15か国・地域前後の参加があり、今年は日本を含めて14か国・地域から小学生世代の約100人が集まった。世界野球ソフトボール連盟選任コーチによる野球教室や、交流試合のほか、お茶や焼き物の絵付けなどの日本文化に触れる機会も設けられた。
「野球を通して子どもたちが友情と親善の輪を広げ、夢や希望を持つように応援したい」という王氏の情熱は、若かりし日から育まれていたようだ。60年、入団2年の20歳だった時に
、札幌の養護学校職員からある手紙をもらった。趣旨は「いつも子どもたちと一緒にラジオで試合を応援している。その子どもたちが、『巨人の選手に会ってみたい』と言っている。何とか一度、会いに来てもらえないか」とのことだったという。
「僕に出来ることなら」と快諾した直後から、現役引退後も含めて約30年間、王氏は札幌を訪れる度に時間を作っては、その施設に足を運んだ。実直で心優しい性格。それは、新人選手から本塁打王15回、打点王13回、首位打者5回。三冠王も73、74年と2度獲得するなど、長嶋茂雄氏とともに球界を代表するスター、「世界の王」と評されるようになってからも、変わることはなかった。
表彰する側の日本スポーツ学会は大学教授、ジャーナリスト、オリンピアンら競技関係者等で作る学術団体。98年に設立され、スポーツ分野で活躍する人らを招いた「スポーツを語り合う会」を年数回、今年11月までで130回開催してきたほか、選手引退後の「第二の人生」への取り組み支援や、世界平和を願う五輪、パラリンピック期間中の休戦アピール署名運動等の活動をしている。
2010年度から始まった「大賞」の選考基準は 1.スポーツ界に多大な貢献をしていること 2.受賞の対象となる活動が長期間にわたっており、なおかつ、その活動が後世に好影響を及ぼしていること 3.授賞式当日に会場に来場し、スピーチ等の講演が出来ること、の3点。
21年度の第12回ではエンゼルス時代の大谷翔平選手が、恩師である岩手・花巻東高野球部監督の佐々木洋氏、高校の先輩である菊池雄星投手(当時マリナーズ)とともに受賞した。
早稲田実高出身の王氏には縁のある早大での授賞式。「大変光栄なことで嬉しい」という本人がどんな話をするのか。インタビューでは質問者とのやり取りのほか、現役時代の活躍を含めて映像が披露される予定だ。スポーツ学会の長田渚左代表幹事は、「王さんは現役選手、指導者時代からいろいろな社会貢献活動をしてきているが、それがあまり知られていない。今度の受賞式は、今も野球への純粋な心を持ち続けている姿を見てもらうとともに、その生の言葉を聞ける貴重な機会になると思う」と話している。
(竹園隆浩 スポーツライター)
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。