北口榛花(26、JAL)が24年シーズン国内初戦として、水戸招待(5月5日)女子やり投に出場した。前週(4月27日)のダイヤモンドリーグ(以下DL)蘇州(中国)大会では62m97で優勝したが、水戸では優勝したが61m83と記録を落とした。北口にとっては昨年6月の日本選手権以来の国内試合。世界陸上ブダペスト大会金メダリストの凱旋試合になったが、パリ五輪での金メダル獲得に向けて課題を確認した試合となった。次戦のGGP(ゴールデングランプリ。5月19日・国立競技場)で、どう修正するかが焦点になる。

得意の6回目最高記録にも「不完全燃焼」

水戸招待の競技後の北口コメントは、自身に対して厳しい内容が多かった。

「もうちょっと投げたかったな、というのが本当の気持ちです。大会関係者の方々が直前に(投げる方向を)変えてくださって、良い条件で試合をさせてもらえたのに、この記録(61m83)は申し訳ないな、と思います」

記録が出なかったのは「空振っている感じが多かった」から。冬期練習で行った投てき以外のトレーニングが「しっかり実になって体力的な土台は上がった」という実感は、4月に入った時点で感じていた。4月の蘇州と水戸では、その土台を試合で行う動きにフィットさせていく。そこが上手くできなかった。

「練習や試合当日のアップでも、ギアが入りきらない感じがあって。試合の1投目でやっとギアが入った感じはありましたが、もう一段階上に入れられませんでした」

3~4月に合宿したスペインの競技場のトラックが「コンクリートのように硬かった」。それが全ての原因ではないが、水戸での不調の一因に挙げられる。

「走るのがもともと遅いので、(路面の硬い)高速トラックなら助けられるのですが、普通のトラックでは自分で努力して走らないとスピードが出ません。頑張ったとしてもテンポにずれがある。どう対応するか、まだ見えていません」

それでも6投目には61m83と、この日の最高記録を投げた。昨年も世界陸上ブダペスト大会6投目で、66m73を投げ逆転で金メダルを決めた。67m04の日本記録(当時)を投げた7月のDLシレジア大会(ポーランド)も、67m38のシーズン世界最高を投げた9月のDLブリュッセル(ベルギー)大会も、今季初戦のDL蘇州の62m97も6投目だった。

「今回は6投目で最高記録を投げても不完全燃焼みたいな感じでした。修正しきれなかった部分が多いと感じています」

昨年、重要な試合で6回目に記録を伸ばしたときと、同じ状態には戻っていない。

プラス材料は「頭で考えられるようになった」こと

DL蘇州と水戸招待の全試技を表にした(写真参照)。

北口のDL蘇州と水戸招待、全試技

蘇州の4回目までの記録は、考えられないくらいに悪かった。5回目に61m44を投げなかったら、3回目の58m93で試合が終わっていた(DLは5回目終了時点の上位3人が6回目の試技を行うことができる)。58m93なら22年以降の3シーズンで最低記録になっていた。

日本陸連ホームページで北口は蘇州大会について、「試合直前の練習の状態が本当に良くなかった。とにかくやりが飛ばなくて、やりたいことを整理できないまま試合に臨みました。最後は思い切りいこうと、気持ちだけで投げました。技術のことは考えずに投げてしまったのは初戦としては反省点です。もうちょっと気持ちに余裕を持ってできたら良かったです」と振り返っている。

水戸の優勝記録は蘇州よりわずかに落ちたが、それは問題ではない。DLと水戸招待では出場する意味が大きく違うからだ。DLは世界トップ選手たちと対戦し、勝敗がそのシーズンに影響する。ライバルたちが「今年も北口は強い」と感じてくれたら、その後の試合を優位に展開できる可能性が膨らむ。

水戸は国内選手間の争いで、もちろん負けたらよくないが、自身の技術を確認することをメインに試合ができた。やりたいことを試すことも、“何も考えないこと”も試すことができる。

「1投目から60mを投げられたことは蘇州よりよかったと思います。今日のアップでも50m超えなくて、(小さくガッツポーズが出たのは)60mを超えただけでもうれしかったんです。しかし2投目から記録が伸びませんでした。日本記録の動画を見て、その時と同じイメージで投げられるようにと思っているのですが、スピード感や(地面から)返ってくる反発が思うようにいかなくて。今日は追い風だったのであまり走らなくても進むと思ったのですが、思ったより走らないと進みませんでした。蘇州では5投目で“もっと走らなきゃ”と思って(そこだけ)やったのですが、今日は“ああしたい、こうしたい”というのが試合中、頭によぎってしまって。考え事をしてちょっと動きが止まる感じになってしまいました。何も考えないで全力で投げることは、(6投目も含め)今日はできませんでした」

だが水戸で一歩進めた手応えも得られた。蘇州では「(4回目まで記録が悪すぎて)必死に投げるしかなかった」が、それに比べれば「今のこうだった、っていうのを考えながら試合ができました。ようやく頭が動き出した」と感じられた。

次戦のゴールデングランプリには北口、マッケンジー・リトル(27、豪州)、フロル・デニス・ルイス・ウルタド(33、コロンビア)と、昨年の世界陸上ブダペストの金銀銅メダリストがそろう。さらに世界陸上で金メダル2個(19年と22年)のケスリー・リー・バーバー(32、豪州)も出場する。

パリ五輪に向けて「プレッシャーは感じていませんが、このままじゃいけない。今は昔(昨シーズン)の感じに戻りたいと思っています」と話す北口が、五輪前哨戦ともいえるメンバーを相手にどんな戦いを見せるか。北口といえども簡単に勝てるメンバーではない。蘇州から水戸まで1週間しかなく、海外にいるコーチ(チェコ人のデービッド・セケラック氏)との話し合いも進められなかった。次のゴールデングランプリまでは2週間の間隔がある。その間に北口陣営がどんな対策を行うか。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)

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