現在は過半数の企業がベアに積極的

 経団連は20日、大手企業の2024年春闘の第1回(中間)集計を公表した。定期昇給と基本給を底上げするベースアップ(ベア)を合わせた賃上げ率は平均5・58%で、1991年(5・6%)以来、33年ぶりに5%を超えた。中小・零細も含む幅広い企業を対象に日銀が実施した調査からも、人手不足を背景に賃上げに積極的な姿勢が浮かび上がった。

人手不足や物価高が背景

 経団連の調査は従業員500人以上の22業種244社が対象で、今回は報告があった16業種89社を集計した。最終集計は7月下旬にもまとめる予定。

 24年春闘の賃金引き上げ額は1万9480円で、比較可能な76年以降で最も高い額となった。23年の中間集計と比較すると、賃上げ率は1・67ポイント、賃上げ幅は6370円上昇した。

 人手不足や物価高を背景に、満額や要求超えの回答が相次いだ。業種別の賃上げ率は自動車が5・24%、造船が6・07%。製造業の平均は5・85%と、連合が掲げた「5%以上」の目標を達成した。非製造業は4・85%だった。

 経団連の新田秀司・労働政策本部長は「人材の確保だけではなく、人材の定着という観点で賃金を引き上げた企業が増えた」と高水準の理由を分析。「(約30年ぶりの高水準だった)昨年が起点となり、今年は加速した。来年は定着する年にしたい」と述べた。

半数以上の企業、ベアに積極的

 一方、日銀が20日に公表した企業調査結果によると、過去1年程度で半数以上の企業がベアに積極的な姿勢を示していることが判明した。日銀はこれまでの金融緩和策の検証作業を進めており、今回の調査もその一環。過去約25年間の緩和策が企業の行動や経営に与えた影響について、23年11月から24年2月にかけて大企業から中小・零細企業まで計2509社を対象に訪問や郵送、インターネットでアンケートを実施し、2256社から回答を得た。

 正社員のベアが伸び悩んだか尋ねた設問では、「当てはまる(ベアに消極的)」と回答した企業の割合が前半(90年代半ば~00年代)は40%超、後半(10年代以降)で30%超だったが、現在(過去1年程度)は15%近くに低下した。一方、「当てはまらない(ベアに積極的)」の回答は現在だと50%を超えた。

 賃上げ姿勢を積極化させている理由(三つまで回答可)については、「労働者の確保に支障が出ることへの懸念」が規模や業種を問わず最多となり、70%前後に上った。「物価の大幅な上昇」や「世の中全体の賃上げムードの高まり」がそれに続いて多かった。

 企業からは、「少子高齢化に加え、転職市場の活発化により異業種との優秀な人材の奪い合いも強くなっているため、昨年に続いて大きめのベアを実施」(小売り・大企業)▽「当社だけ賃上げに消極的だと、従業員のモチベーションや採用競争力が低下することを懸念している」(宿泊サービス・零細企業)――といった声が寄せられた。

 物価と事業環境については、「物価と賃金がともに緩やかに上昇する状態」が事業活動をする上で好ましいとの回答が全体で70%を超えた。理由(複数回答可)は、「賃金が増えると家計のマインドや消費にプラス」や「値上げを抑制するためのコストカットが不要になり、設備投資や賃上げを行える」が多かった。

 日銀は「バブル崩壊・金融危機以降、長らく定着してしまった企業行動に大きな変化が生じている途上にある」と分析。値上げや賃上げを巡る企業の動向が「経済・物価情勢を占う上で、極めて重要な要素になる」としている。【浅川大樹、道永竜命】

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