アサヒビール傘下のニッカウヰスキーは5日、7月に迎える創業90周年を記念し、30万円超のウイスキーを発売すると発表した。「ジャパニーズウイスキー」が世界に認められる契機をつくった先駆者として高価格路線で先行し、デフレ脱却の「優等生」を目指す。

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1瓶700ミリリットルの参考小売価格は33万円。ニッカが7月に発売する創業90周年を記念した商品「ザ・ニッカ ナインディケイズ」は1940年代から2020年代にかけて国内外の蒸留所で熟成した原酒150種以上をブレンドした。国内外で計4000本限定で販売する。

強気な値付けについてアサヒビールの松山一雄社長は「十分価値を感じてもらえる。(グループとしての付加価値を高めるために)ニッカが果たす役割は大きい」と期待する。店頭価格2000円以上の「プレミアムウイスキー」の市場で、ニッカの販売数量は現在、世界50位程度。海外市場を積極的に開拓することで、将来的には世界トップ10入りを目指すとした。

60億円を投じ貯蔵施設を増強

24年には60億円を投じて貯蔵施設を増強すると表明した。栃木工場(栃木県さくら市)に9月から稼働する貯蔵庫を新設するほか、主力の蒸留所で貯蔵に必要なたるを購入する。貯蔵能力は21年比で1割増えるという。ニッカウヰスキーの為定一智社長は100周年を迎える34年、さらにその先を見すえて「継続的に設備投資をして製造能力を増やしていきたい」と話す。

日本の代表的なアルコール飲料と言えば、もはや日本酒ではなくウイスキーになりつつある。財務省の貿易統計によると、日本のウイスキー輸出額は20年に清酒(日本酒)を超えた。23年は米中の景気減速で両品目ともに輸出額が減少したものの、5年前の18年比ではウイスキーが3.3倍と、同8割増えた清酒を上回る伸びを見せる。

ジャパニーズウイスキーの始まりはサントリーの山崎蒸溜所とされ、山崎は23年にウイスキーづくりを始めて100年を迎えた。山崎の創業メンバーで技師を務めていたのがニッカ創業者の竹鶴政孝で、ニッカは源流ともいえる。

01年に英ウイスキー専門誌のコンテストでニッカの「シングルカスク余市10年」が総合1位を、03年にはサントリーの「山崎12年」が国際酒類コンペで金賞をそれぞれ獲得し、ジャパニーズウイスキーの存在感を確立した。

大幅値上げで前年から2割超高く

海外での人気もあって、ウイスキーの価格は上昇が続く。22年実績でニッカより6割ほど販売数量が多い国内首位のサントリーは、23年7月に大衆向けの「角瓶」、24年4月に高価格帯の「山崎」「響」などを値上げした。「サントリーウイスキー 響30年」は2.25倍の36万円に引き上げたものの需要が供給を上回り、現在も品薄状態が続く。

ニッカも4月、大衆向けの「ブラックニッカクリア」、高価格帯の「シングルモルト余市」などを値上げした。参考小売価格で最大62%と大胆な値上げだ。総務省の小売物価統計調査(東京都区部)によると、5月時点のウイスキーの価格は前年同月から2割強上昇した。ウイスキーの消費者物価指数も同じく前年から2割を超える上昇が続く。

ウイスキー文化研究所代表の土屋守氏は「値上げは必然だ。世界のウイスキー価格が上がっているなか、日本の値段はまだまだ安い」と指摘する。賃金上昇と物価高の好循環による脱デフレへの期待が強まっているが、ウイスキーは高くても消費が折れない象徴的な存在だ。

アサヒグループは、世界で付加価値の高い商品を売る「High-Value(ハイバリュー)」戦略を掲げる。屋台骨のビールは「スーパードライ」と、イタリアビール「ペローニ」を柱に据える。

一方で、「ウイスキーの供給量があまりにも限られているので、(アサヒ全体の高付加価値)ビジネスを大きく伸ばしていくまでのインパクトは今のところない」(アサヒビールの松山社長)。需要が冷めないうちに供給量を増やせるかが成長の鍵を握る。

(八木悠介)

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