働く高齢者 大幅引き上げ求める声

働く高齢者からは物価高の中で年金だけでは生活が厳しいとして最低賃金の大幅な引き上げを求める声が聞かれます。

山形県鶴岡市で1人暮らしをする佐々木俊司さん(68)は65歳で会社を定年退職したあとは、パートとして介護関連の施設で送迎を介助する仕事をしています。

賃金は山形県の最低賃金と同じ900円で、週6日働いても午前中の限られた時間のため、月の手取りは5万円ほどです。

65歳からは年金を受給していますが蓄えはわずかで、光熱費や食費など日常生活にかかる費用を支払うと手元にはほとんど残らないということです。

物価が上がっているため生活費を切り詰めようとふだん買い物をするスーパーでパンや野菜などなるべく安い品を探して煮物などを自炊しています。

また、趣味の映画鑑賞や音楽のコンサートに出向くことも控えて節約しています。

佐々木さんは心臓の病気があり多くの薬を服用していてこれ以上、長い時間働くことは難しいのが現状です。

今後も年金の支給額が増えないと見込まれる中で、物価の上昇が続けば暮らしがますます厳しくなると考えていて最低賃金の大幅な引き上げを実現してほしいと求めています。

佐々木さん
「年金だけでは生活が苦しく老後に向けて蓄えるという考えもできないし、生きることはできるけれど生きているだけになります。春闘でいくら大企業の賃金が上がっても私たちには波及しないし暮らしは楽にならないので未来に希望が持てません。最低賃金の全国での格差をなくしてほしいですし、山形ではせめて1000円を上回れるよう頑張ってほしいです」

ハローワーク訪れる高齢者からも

働く高齢者からは物価が高騰する中で年金だけでは生活が厳しいことなどとして最低賃金の引き上げを求める声が聞かれました。

東京・新宿のハローワークではおととしから「シニア応援コーナー」として専門の職員が高齢者の就職を支援する特設コーナーを設けています。

訪れる高齢者からは、▼定年後の再雇用や再就職で給料が大幅に減ったという相談や▼年金だけでは生活できず、将来の生活が不安だといった相談を多く受けるといいます。

ハローワークを訪れた60代の男性
「60歳の定年退職後、再雇用で働いていましたが、年収が4分の1くらいまで減ってしまい、年金だけで生きていけるか不安があります。物価も相当上がっていますし、最低賃金は正社員並みの5%か6%くらいは引き上げてほしいです」

65歳の女性
「家賃や光熱費などの必要経費だけでも10万円くらいになりますが、年金はそれだけでなくなってしまい、あとは自分で稼がなくてはいけません。高齢だと正社員ではなく、バイトなどの短時間の仕事の求人が多いですし、最低でも時給で1200円から1300円程度はほしいです」

働く高齢者増 生活「苦しい」6割

働く高齢者が900万人以上にのぼる中で、最低賃金は高齢者の給与にも影響を及ぼしています。

総務省の労働力調査によりますと65歳以上の働く高齢者は増え続けていて、2023年は過去最多の914万人となりました。

これは働く人全体の13.5%にあたります。

高齢者は現役世代に比べて給与水準が低い傾向にあり、最低賃金に近い人の割合を年代別にみると20代前半までの若年層が特に高く、それ以降は減ったあと60代を境に再び高くなっています。

2020年の賃金構造基本統計調査の分析では1時間あたりの所定内給与が最低賃金の1.1倍未満の人の割合を年齢別で見ると、次のようになっています。

▼15~19歳 51.7%
▼20~24歳 21.2%
▼25~29歳 9.1%
▼30~34歳 8.7%
▼35~39歳 8.4%
▼40~44歳 9.2%
▼45~49歳 10.0%
▼50~54歳 10.7%
▼55~59歳 11.1%
▼60~64歳 17.0%
▼65~69歳 26.5%
▼70歳以上 34.7%

厚生労働省の国民生活基礎調査では、2022年の高齢者世帯の平均所得は年金や賃金を含めて304万9000円で、その他の世帯の651万1000円の半分以下にとどまっています。

また、高齢者世帯で生活が「苦しい」と回答した世帯は、前年より10.7ポイント高い59.0%にのぼり、統計を取り始めた1986年以降で最も高くなりました。

厚生労働省は「年金を受給している人や仕事をしている人でも物価高や燃料費の高騰の影響などで生活の苦しさが増している可能性がある」と分析しています。

最低賃金 労使が求める引き上げ額の目安提示へ

こうした中、厚生労働省の審議会で最低賃金の引き上げをめぐり議論が行われています。

企業が労働者に最低限支払わなければならない最低賃金は去年、全国平均で43円引き上げられ、現在は時給1004円となっています。

ことしの春闘で5%を超える大幅な賃上げが相次ぐ中で、最低賃金を今年度、どこまで引き上げるかについて18日、厚生労働省の審議会で3回目の議論が行われています。

労働者側は春闘での歴史的な賃上げを広げていく必要性や物価高が続き労働者の生活が厳しさを増しているなどとして大幅な引き上げ額を示す見通しです。

これに対して企業側は引き上げに理解を示しながらも、コスト増加分を価格転嫁できない企業が相当数あるなどとして、従業員30人未満の企業のことしの賃上げ率が2.3%だったことを元に大幅な引き上げには慎重な考えです。

最低賃金の議論は来週まで行われ、全国の目安が決まる見通しで、過去最大となった去年を上回る引き上げとなるかが焦点です。

専門家「働く高齢者視点でも最低賃金考える必要」

労働政策に詳しいリクルートワークス研究所の坂本貴志研究員は次のように指摘しています。

「以前は最低賃金に近い労働者は主に若者やパートで働く主婦などが多かったが、最近ではそれに加えて高齢者の割合がかなり高くなっていている。最低賃金の位置づけも時代とともに変わってきていて働く高齢者の賃金という視点でも最低賃金を考えていく必要が生じている」

その上で、次のように話していました。

「最低賃金の引き上げによる企業に対する影響も検証していく必要があるが、年金がたとえ少し下がっても高齢期に安心して暮らしていける環境を整えていくため、高齢者の視点で最低賃金を引き上げていくことを考える必要がある」

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