国立がん研究センター中央病院と同センター東病院は12日、次世代の抗がん剤「たんぱく質分解薬」の効果を調べる医師主導の臨床試験(治験)を8月から始めたと発表した。患者のがん組織を移植したマウスの実験で、胆道がんや子宮体がんに効果が認められた。

記者会見する国立がん研究センター研究所の間野博行所長(東京都中央区)

たんぱく質分解薬は病気の原因となるたんぱく質を狙い撃ちにして分解する。従来の低分子薬よりも多くのたんぱく質に作用できる。治療の幅が広がると期待され国内外で開発が進む。

抗がん剤の開発では通常、がん細胞を培養して増やした上で、マウスに移植して薬を与え、効果を調べてから患者に投与する。ただ、培養の過程で細胞の多様性が失われ、実際に患者に使ったときの効果を予測しづらいのが課題だった。

今回は患者のがん組織を培養せずに、免疫不全にしたマウスに移植する手法を用いた。この手法では患者での薬の効果を5〜8割の確率で正しく予測できるとされる。培養細胞を用いる場合の5%よりも大幅に高い。

エーザイと共同で同社が開発したたんぱく質分解薬「E7820」の効果を胆道がん、子宮体がんなどについて調べた。その結果、全体では38%のマウスでがんが縮小した。胆道がんを移植したマウスでは58%、子宮体がんでは56%で縮小した。膵臓(すいぞう)がんでは8%と低かった。薬が良く効くがんの多くでは、がん抑制遺伝子「BRCA1」などが変異していた。

この結果をもとに、胆道がんや子宮体がんなどの患者数十人を対象に安全性や適切な用量などを調べる初期段階の治験を始めた。終了後は治療効果を本格的に調べる治験の実施も検討しており、薬事承認を目指す。

国立がん研究センター研究所の間野博行所長は患者のがん組織を移植した免疫不全マウスを使う手法について「創薬にかかる期間を2〜3年は短縮できる。(海外の新薬について国内の承認が遅れたり、使えない状態が続いたりする)ドラッグラグ・ロスの状況に風穴を空けられる」と話す。

E7820は2004年に米国で治験を実施したが、実用化していない。当時は薬が作用する詳しい仕組みや、薬の効きやすい患者の特徴などが不明だった。その後の研究でたんぱく質分解薬として機能すると分かった。今回の研究で薬の効きやすいがんの種類や患者の特徴なども分かり、患者を絞り込んで治療効果を確認しやすくなった。

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