売り手が請求書などに消費税の税率ごとに区分した税額や事業者の登録番号を記載するインボイス(適格請求書)制度が始まって10月1日で1年がたつ。事業者の登録は一巡した一方、導入した中小企業を対象とした調査では8割超が事務負担の増加を訴えた。経理のデジタル化を通じた生産性の向上が重要になる。

インボイス制度は2023年10月に始まった。19年10月に消費税率を上げた際、食品などに適用する軽減税率の8%と通常の10%の2種類に税率が分かれた。どの税率の取引かを正確に把握するため導入した。消費税の仕入れ税額控除には、仕入れ先からインボイスを発行してもらうことが原則、必要になった。

国税庁によると、24年8月末までにインボイスを発行できるよう登録した事業者は458万に達した。23年10月末は407万だった。足元で新規登録は減っており、事業者の対応は一段落したとみられる。

インボイスの普及が進む一方で、経理部門の事務負担が浮き彫りになってきた。日本商工会議所などが5〜6月に会員企業に実施した調査では、制度を導入した2千超の事業者のうち82.2%が事務負担が増えたと回答した。

インボイスを受領するとまず必要事項が抜け落ちていないか、発行事業者とひもづけられた登録番号に誤りがないかを確認する必要がある。企業からは「要件を満たさない請求書を発行する事業者が多い」「制度が複雑で分かりづらい」といった声が上がっている。

業務のデジタル化が進んでいないことも負担増の背景にある。請求書管理ソフトを手がけるSansanが8月に全国の経理担当者1000人を対象に調べたところ、請求書受領サービスなどを用いて受け取ったインボイスの登録番号を自動で読み取っているのは11.3%にとどまった。75.0%は経理や現場部門が目視で確認していた。

日商によると、事業規模が小さいほど請求書や帳簿の作成も手書きの割合が高まるという。政府はオンライン上で請求書をやりとりできるデジタルインボイスの普及をめざしている。デジタル技術を活用した請求作業のペーパーレス化がまずは欠かせない。

免税事業者がインボイスに対応し、課税事業者に転換する場合は税負担が増す可能性がある。日商の調査では、転換した事業者の85.6%が取引先と価格交渉しておらず、54.9%は収入が減ったと答えた。適正な価格転嫁を促す支援も求められる。

経済・社会保障 最新情報はこちら

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。