iPS細胞抽出成分

コーセーは8日、顧客本人の細胞でつくったiPS細胞を使う美容商品事業を始めると発表した。血液などからiPS細胞をつくり、抽出した有効な成分を混ぜた美容液や化粧水をつくる。2026年度までに肌の診断と組み合わせた美容サービスとして提供する。先端技術を生かした個人向け美容事業として育成する。

1本12万円以下の美容液年6本と、カウンセリングや医療機関での肌の診断をパッケージにする。26年度のサービス開始時点では年100万円前後で提供することを想定する。需要が見込まれる中国や北米での世界展開も進め、まずは数百人の顧客の確保を目指す。

コーセーは、iPS細胞の量産技術を持つ米アイ・ピース(カリフォルニア州)と、iPS細胞から抽出した細胞を活性化するという成分「iPSF」を活用した商品を提供するレジュ(東京・港)と技術提携する。顧客本人の血液中の細胞からアイ・ピースがiPS細胞をつくって培養し、レジュがiPSFを抽出した上で、コーセーが開発する美容液や化粧水に混ぜる。

いったん血液や皮膚などに分化した細胞に少数の遺伝子を加えて培養したiPS細胞は、様々な臓器の細胞に再び分化したり、ほぼ無限に増えたりする能力を持つ。病気やけがで失った身体機能を回復させる再生医療への応用が期待されており、京都大学の山中伸弥教授が世界で初めて作製し、ノーベル生理学・医学賞を受賞した。

今回の美容液などは医療機関を通して医師の管理下で提供される美容商品だ。採血を含めた細胞の採取などは医療機関が担う。採取した細胞の健康状態を診断するサービスも視野に入れる。

iPS細胞の顕微鏡画像

24年中に数十人規模で実証実験を始め、安全性や効果、需要、価格を検証する。iPS細胞を使う商品をつくるには、細胞の培養や保管、医療機関の運営などのための費用がかかるため、費用対効果が課題となる。

価格が手ごろな韓国発の化粧品「韓国コスメ」の需要拡大などで、国内の化粧品市場の競争環境は厳しくなりつつある。価格競争とは一線を画し、先端技術を生かして特定の個人に合わせた商品やサービスを提供することで、顧客の囲い込みにつなげようとする動きは化粧品各社で広がる。

花王は4月から、皮脂のRNA(リボ核酸)を分析し、個々人に合った美容プログラムを提供するサブスクリプション(定額課金)サービス「エスト スキンアスリートジム」を開始した。顧客は皮脂RNA分析の結果に基づき、通年にわたり専属のスタッフから肌のトリートメントなどを受けることができる。

資生堂も2023年、唾液から抽出したDNAで個々の肌特性を割り出す「ビューティー・DNA・プログラム」を開始した。自宅に郵送されたキットで採取した唾液を送り返すと、シミのできやすさなど自分の肌特性を知ることができ、オンラインで美容部員から様々なアドバイスも受けられる。

コーセーは8日、24年1〜3月期の連結純利益が前年同期比78%増の69億円だったと発表した。欧米を中心に展開する「タルト」ブランドや国内向けが好調だった。24年12月期の業績見通しは純利益が前期比8%増の126億円という従来予想を据え置いた。

(行方友芽、出口広元)

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