ベネッセホールディングス(HD)が15日発表した2024年3月期の連結決算は、純利益が前の期比43%減の64億円だった。同社はMBO(経営陣が参加する買収)で17日に上場廃止になる。主力の「進研ゼミ」が少子化で苦戦するなか、MBOに参加した投資ファンドから5億ドル(約780億円)程度の資金支援を受けて、教育のデジタル化や介護分野も含めたM&A(合併・買収)などで再成長を目指す。

24年3月期の売上高は微減の4108億円、営業利益は2%減の202億円だった。上場廃止前の最後の決算発表は減収減益で終えた。営業利益は過去最高だった11年3月期の半分の水準に落ち込んだ。

介護や保育が好調だったものの、進研ゼミを中心とする教育事業の落ち込みをカバーできなかった。中国や台湾事業などでの特別損失も響いた。25年3月期の業績見通しは公表しなかった。

進研ゼミは1969年にスタートし、赤ペン先生の添削指導などきめ細やかなサービスで会員数を増やした。転機は2014年の個人情報流出問題だ。これを機に会員数が急減し、23年4月は160万人と14年4月から4割減った。この期間の15歳未満の子どもの人数は1割減で、進研ゼミは高校生も含むため単純比較はできないが、少子化を上回るペースで事業規模が縮小している。

ベネッセ特有の問題もある。家庭学習の進研ゼミは「共働きが一般的になり、保護者が近くで見守るという前提が変わり、構造的な限界を迎えている」(大手証券会社のアナリスト)。

ベネッセHDは23年5月、既存事業の立て直しや新領域の成長拡大などを盛り込んだ「変革事業計画」を公表した。反転攻勢への決め手に欠けるといった受け止めが広がり、発表後に株価は急落した。

抜本的な立て直しに向けて、23年11月に創業家がヨーロッパの投資ファンドEQTと組んでMBOを実施すると表明した。MBOの一環として実施したTOB(株式公開買い付け)が3月に成立していた。

EQTは教育・介護分野の事業拡大や再生に強く、欧州やアジアなどで20社を超える投資実績がある。香港などでインターナショナルスクールを展開しているノードアングリアではデジタル技術の活用や海外展開を支援し、生徒数を10倍以上に拡大させた。

EQTはベネッセHDの支援に5億ドル程度を投じる方針だ。具体的な使い道は今後詰める。ベネッセHDは支援を受けて、教育のデジタル化や海外展開を進める。教育や介護分野でM&Aも積極的に活用する。

同じく少子化で事業構造の転換を迫られた学研ホールディングス(HD)は、10年代に介護事業への注力や不採算の出版分野の整理縮小といった構造改革を進めた。介護などが売上高の5割(23年9月期)を占めるまで成長した。

一方、ベネッセHDは介護・保育事業の占める割合は3割(24年3月期)だ。介護に次ぐ柱がみつかっていない。15日の株価終値は最高値の5分の1程度の水準にとどまる。非上場化でこれまでより迅速に意思決定できるようになり、成長戦略の「正解」を導き出せるか。新たな船出に超えるべき課題は多い。(桜井貴文)

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