中国のマラソンが質量ともに急成長している。生活水準や健康志向の高まりに伴い、大会数はこの10年で10倍以上、トップ選手の記録も世界レベルに急速に近づいている。ただ、大会の急増でトラブルや事故も頻発するなど課題も少なくない。中国のマラソン事情を自身の参加経験を踏まえて報告する。(中国・青島で、新貝憲弘)

スタートするランナーたち(新貝憲弘撮影)

◆スタート前に国歌斉唱、中国らしさ全開

青島マラソンの参加賞。完走後には完走記念のメダルや大きなタオルなどももらった(新貝憲弘撮影)

 中国を代表する「青島ビール」で知られる港町、山東省青島で4月下旬に行われた「青島マラソン」に参加した。42.195キロのフルとその半分のハーフで2万5000人の枠に約11万人の応募があった。参加したのはハーフで参加費は160元(約3360円)と日本より割安で、参加賞はTシャツや完走メダルのほか、ポンチョのように羽織れる大きなタオルや青島ビール、スポーツドリンクなど盛りだくさんだった。  おそろいのTシャツで走る同好会や奇抜な格好で走る姿は中国でもしばしば見られ、給水所や仮設トイレ、救護所なども日本並みに用意されている。ユニークなのはスタート前の国歌(「義勇軍行進曲」)斉唱。勇ましいメロディーとともに「ウォー」と叫んで気持ちを奮い立たせる姿は中国ならではだろう。

◆マラソン大会の経済効果は1兆円超え

給水所で補給食のバナナを受け取るランナーたち(新貝憲弘撮影)

 名所旧跡の入場料や公共交通機関の利用が無料になる大会もあり、日本と同じように中国でも大会開催を機に外から人を呼び込んで地域経済の振興につなげたいという思惑がみえる。ある試算では2025年にはマラソン大会による経済効果が500億元(約1兆1000億円)に上るという。  スマートフォンの専用アプリで多くの大会情報が検索・応募できる点は便利で、応募要項が開催2週間前に公表されるケースもあり直前まで目が離せない。決済は「ウィーチャットペイ」など中国のスマホアプリしか対応していない場合が多く中国在住者以外は参加が難しい。  中国メディアによると、参加者800人以上の大会は14年の51から19年の1828と急増、参加者数は延べ700万人を超えた。その後コロナ禍でいったん激減したものの昨年は約700大会、600万人強まで回復した。  市民マラソンの盛り上がりに合わせて競技レベルも上がっており、3月には中国籍選手として初の2時間6分台が記録され、約1年で1分以上短縮された。

◆目立つトラブル「誰のための大会なのか…」

青島のランドマークモニュメント「5月の風」の前を走るランナーたち(新貝憲弘撮影)

 一方で大会と参加者の急増によるトラブルも目立つ。21年5月に行われた山道を走るトレイルラン大会では急な悪天候による気温低下などで21人が亡くなり、その後参加者の装備や救急対応が不十分だったとして運営面の問題が指摘された。  実感としても大会によって運営レベルに差があり、給水サービスが間に合わず他の参加者と水を分け合ったことやコースに問題があるとして開催直前に中止になったことがあった。  大会スポンサーの過剰な「演出」も問題になっている。4月に北京で行われたハーフマラソン大会では、招待選手として登録された外国籍選手がペースメーカーとして参加し、中国籍選手に優勝を譲ったとして、関係した選手4人の記録が無効になった。  大会スポンサーがシューズを提供する選手を優勝させて自社ブランドのイメージアップを図ったとみられる。ある中国メディアは「主催者は『マラソンをなぜ、誰のために開催するのか』を考える時に来ている」と指摘している。 

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