北朝鮮を逃れ、韓国に定着した北朝鮮脱出住民(脱北者)の学生でつくる野球チーム「チャレンジャーズ」が7月、ベースボールの本場の米国に遠征した。「韓国社会に溶け込むきっかけをつかんでほしい」との願いで結成されたチームは、現地で交流試合に臨み、グラウンド外では北朝鮮の人権問題の深刻さを訴えた。(米南部バージニア州クリフトンで、鈴木龍司、写真も)

7月26日、バージニア州クリフトンで開かれた交流試合で、健闘を誓い合うチャレンジャーズのメンバー

◆孤立しがちな脱北者に「世界は広いと感じてほしい」

 「ナイスピッチング」「よく打った!」  7月26日、首都ワシントンに近いクリフトンの野球場に歓声が響いた。チャレンジャーズのナインは、韓国系米国人らとの交流試合で、はつらつとしたプレーを披露した。  中学と高校、大学生らで構成するチームは、2021年に韓国に設立された社団法人「新韓半島野球会」が運営。北朝鮮では米国生まれの野球は「資本主義のスポーツ」として禁止されており、選手はルールから学んだ。学業の傍ら、キャッチボールなどの基礎練習を重ね、韓国チームとの試合を続けている。  「今回の訪米で『世界は広い』ということを、肌で感じてくれたらうれしい」。私財を投じて同野球会を設立した在日コリアンの会社経営、金賢(キムヒョン)さん(52)=東京都=は「脱北者だからという理由で内向きになるのではなく、野球で友人を増やし、羽ばたいてほしい」とチーム創設の思いを語った。偏見を持たれ、疎外感を感じて暮らす脱北者が少なくないという。

◆ヤンキースタジアムで観戦、国務省では支援呼びかけ

 念願だった米国遠征は、チームを応援する民間の寄付などで実現した。訪米前には尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の激励を受け、「自由に向けたホームラン」と書かれた記念のボールを贈られた。

交流試合で、懸命にプレーするチャレンジャーズの選手たち

 チームは同世代との交流試合のほか、ニューヨークのヤンキースタジアムで大リーグの試合を観戦。元大リーガーの指導も受けた。  また、米国務省のジュリー・ターナー北朝鮮人権問題担当特使や連邦議会議員らと面会し、北朝鮮の人権問題の改善に向けた支援を呼びかけた。

◆「北朝鮮の人に野球を教え、南北交流を支えたい」

交流試合で、懸命にプレーするチャレンジャーズの選手たち

 学び直しのために高校に通いながら、野球に打ち込む脱北者の男性(19)は「ヤンキースタジアムの雰囲気に感動した」と振り返り、「仲間同士で『ナイスプレー』と励まし合う野球は、交流の輪を広げてくれる」と話した。交流試合では適時打を放つなど活躍し、「将来は北朝鮮の人に野球を教え、南北交流を支えたい」と笑顔で語った。

交流試合で、始球式に臨む新韓半島野球会理事長の金成日さん

 韓国で会社を経営しながら新韓半島野球会の理事長を務める脱北者の金成日(キムソンイル)さん(43)は、「われわれ脱北者は二つの世界を知っている。その経験を肯定的に捉えて、人生に生かすために、野球で挑戦する心を培ってほしい」と願った。次回は日本への遠征を目指すという。 

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