ボイコットで客がいないマクドナルド店内(2023年11月、エジプトの首都カイロ)=ロイター

【ニューヨーク=弓真名】イスラエルとイスラム組織ハマスの衝突をめぐり、ケンタッキー・フライドチキン(KFC)やコカ・コーラなど米国企業やブランドに対する不買運動が広がっている。特にイスラム圏ではイスラエルを支援したり、つながりがあるとされる企業の売上高が急減するなど業績への影響が拡大している。

「ケンタッキー」や「オレオ」に打撃

中東・北アフリカ地域などでKFCやクリスピー・クリームなどを展開するアメリカーナ・レストラン・インターナショナルは、24年1〜6月期の売上高が前年同期比15%減、純利益も45%減と大幅な減収減益に陥った。

同社のアマルパル・サンドゥ最高経営責任者(CEO)は今月1日の決算説明会で「減収の主な要因の一つとして不買運動を引き起こしたガザ戦闘の長期化があげられる」と説明し、長期化するボイコットについて懸念を示した。

「オレオ」などを販売する菓子大手モンデリーズ・インターナショナルの4〜6月期は売上高が2%減となり、ルカ・ザラメラ最高財務責任者(CFO)は「ボイコットによる逆風が(減収率のうち)0.4%ほどあった」と説明した。また「中東と東南アジアでのボイコットによる逆風は下半期も続くだろう」と警戒する。

23年10月にイスラエルとハマスの戦闘が始まって以来、米政府はイスラエルを支持する立場を貫いている。米国の親イスラエル路線に反発するイスラム圏の消費者の間で米国商品やサービスへのボイコットが進んでいる。

コカ・コーラはCMで失態

企業側のミスが原因でボイコットが悪化するケースも出ている。

「コカ・コーラはパレスチナにも工場があるんだ」――。6月、人口の約9割がイスラム教徒とされる南アジアのバングラデシュでコカはこんなCMを繰り返し流した。中東の衛星テレビのアルジャズィーラによると、バングラデシュではコカ・コーラの売上高がハマスとイスラエルの衝突が起きてから約23%減少していた。こうした事態に応じて投入した広告だった。

パレスチナに寄り添っていることをほのめかすことでイメージ向上を狙ったが、完全に裏目に出た。工場はパレスチナといっても、「国際法違反」と批判されているイスラエル人入植地にあることが判明。イスラム圏の消費者から猛烈な反発を招いた。

コカ・コーラはすべてのプラットフォームから広告を削除。グローバル戦略コミュニケーション担当副社長のスコット・リース氏は8月12日、米紙ワシントン・ポストで「ビデオ(広告)は的外れであったことを認める」として謝罪した。

マクドナルドは、昨年10月、イスラエルのフランチャイズ企業(当時)が同国軍の兵士に無料で食事を提供したとして批判が集まった。

同社のクリス・ケンプチンスキー最高経営責任者(CEO)は今年1月「中東の一部や中東以外の業績にある程度影響が出ている」とボイコットの影響を認めた。4月には現地フランチャイズから事業を買い取り、米本社直営に切り替えると発表した。

長期化なら全体業績に影響も

ボイコットは一般的に短期間で収束することが多いが、今回は23年10月の戦闘開始から10カ月たっても各地でくすぶり続けている。

飲料・食品の情報を提供するベバレッジ・ダイジェストの編集者デュエイン・スタンフォード氏は「世界200カ国で展開しているマクドナルドのようなグローバル企業ならば、特定地域のボイコットによる全体の業績への影響は限定的になる」としつつも「適切に対処しないと長期的な損害を生む可能性がある」と警戒感を示す。

「#BDS」がSNSで拡散


イスラエルとの経済的なつながりに反対する抗議者たち(2024年4月26日、米ジョージ・ワシントン大学)=ロイター
イスラエルがパレスチナの権利を侵害しているとして、それに加担する米欧企業のサービスや製品に反対する不買運動の歴史は長い。ボイコット(Boycott)、投資引き揚げ(Divestment)、制裁(Sanctions)の頭文字を取って「BDS運動」と呼ばれる。

BDS運動は、イスラエルがヨルダン川西岸とイスラエルを隔てる壁を建設し始めた2000年初頭に始まった。イスラエルとハマスの戦闘開始以降、広く知られるようになった。

X(旧ツイッター)や動画投稿アプリのTikTokなどのSNS上では「#BDS」のハッシュタグとともに、米パソコン大手HPや石油大手のシェブロンなど、イスラエルを支援しているとされるブランドを名指しし、ボイコットを呼びかける動きが多く見られる。

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